作業の途中で依頼が増えたら、追加料金を請求できるのか。直接の条文は無く、合意と記録が基本になる

並んだ3枚の書類と、プラスの記号が入った点線の4枚目の線図と、追加の依頼という見出し

トップページと下層5ページで見積もりを出し、その金額で契約した。
作り始めて2週間、「お知らせのページも追加できますか」「予約のフォームも付けてほしい」と連絡が来る。
これは今の金額の中でやるものなのか、追加の料金をもらってよいのか。
受託で制作していると、ほぼ必ず出会う場面だと思います。

先に結論を書きます。

  • 契約のあとで依頼が増えたときに、追加の報酬を請求できると直接定めた条文は、民法にもフリーランス法にもありません。追加の分をいくらにするかは、あらためて合意して決めるのが基本です
  • ただし、増えた分の費用を発注者が持たないことを問題にする決まりはあります。フリーランス法では、発注者が従業員を使う事業者などで1か月以上の仕事なら、受注者の側に理由が無いのに内容が増えたのに、その費用を負担しないことは「不当な給付内容の変更」にあたります。制作会社などから受ける仕事で発注者の会社が大きければ、期間にかかわらず取適法(旧・下請法)も同じことを問題にしています
  • 私の受注64件のうち、契約後に依頼が増えたのは32件でした。追加の見積もりを出したものが16件、無償で対応したものが14件、断ったり別の契約にしたりしたものが15件です(重なりあり)

ふだんはフリーランスでWeb制作をしています(運営者情報)。
弁護士ではないので、ここに書くのは条文と公的資料の該当箇所、自分の記録で確かめたことだけです。
個別の契約の解釈は、専門家に相談してください。

目次

追加料金を直接決めた条文は、民法にもフリーランス法にもない

Webサイトの制作は、完成させることを約束して報酬を受け取る形が多く、民法の「請負」にあたることが多いと考えています。

請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法 第632条

請負の節にある報酬の規定は、報酬を払う時期(第633条)と、途中で完成できなくなったときや解除されたときの割合に応じた報酬(第634条)です。
契約のあとで仕事の内容が増えたときの報酬について定めた規定は見当たりませんでした。
保守や運用のような準委任の契約でも同じで、報酬は特約がなければ請求できないとする第648条第1項があるだけです。

近いものとして、商法 第512条があります。

商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。

商法 第512条

ただ、フリーランスのWeb制作者がここでいう「商人」にあたるのか、Web制作が商法の「商行為」にあたるのかは、条文だけでは決まりません。
当てはまる場合がある、という以上のことは言えないと考えています。

フリーランス法も、受注者が追加の報酬を請求できるとは定めていません。
この法律は、発注者が示すべき条件(第3条)と、発注者がしてはいけないこと(第5条)を決めたものです。

だから、追加の料金は「追加の分について、あらためて合意する」のが基本になります。
金額を決めないまま作業した場合に相当の報酬を求められるかは、商法第512条が当てはまるかなど、個別の判断になります。
契約は口頭でも成り立ちます(民法 第522条第2項)。
「追加でお願いします」「わかりました」というやり取りだけで、金額を決めないまま作業が進むと、あとから「その分も最初の金額に入っていると思っていた」と言われる余地が残ります。

フリーランス法が問題にするのは、増えた分の費用を持たないこと

フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の第5条第2項は、受注者に責任が無いのに給付の内容を変えさせ、それによって受注者の利益を不当に害することを禁じています。

特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること。

フリーランス法 第5条第2項第2号

何が「不当」なのかは、公正取引委員会と厚生労働省の「考え方」が書いています。

給付内容の変更ややり直しによって、特定受託事業者がそれまでに行った作業が無駄になり、又は特定受託事業者にとって当初委託された内容にはない追加的な作業が必要となった場合に、特定業務委託事業者がその費用を負担しないことは、特定受託事業者の利益を不当に害することとなるものである。

公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」

ページや機能の追加を頼まれて作業が増えたのに、その費用を発注者が持たないなら、この「不当な給付内容の変更」にあたりうる、ということです。
逆に、必要な費用を発注者が負担するなら問題にはならない、とも書かれています。
受注者の側から内容の変更を頼んだ場合は、費用を発注者が持たなくてよいとされています。

見積もりのあとで増えたのに、金額を見直さない場合

見積もりを出したあと、契約の前に依頼が増えた場合は、「買いたたき」にあたるおそれがあります。
考え方は、買いたたきにあたるおそれのある例として、次を挙げています。

② 特定受託事業者に見積りをさせた段階より給付又は提供すべき役務が増えたのにもかかわらず、報酬の額の見直しをせず、当初の見積価格を報酬の額として定めること。

同

ただし、考え方は、買いたたきは「業務委託をする時点で生ずるもの」だとしています。
金額を決めて作業が始まったあとに増えた場合は、多くは先ほどの「不当な給付内容の変更」の問題として読むことになります。
追加の分を新しい委託として金額を決めるなら、そのときの金額の決め方が買いたたきの問題になりえます。

どの決まりがかかるかは、発注者で変わる

フリーランス法の第5条がかかるのは、発注者が従業員を使っている個人か、役員が2人以上いるか従業員を使っている法人(特定業務委託事業者)で、しかも1か月以上の業務委託の場合です(第2条第6項、第5条第1項、施行令第1条)。
1か月以上には、予定している期間や、更新して通算で1か月以上になる場合も含まれます。
受ける側が、従業員を使っていない個人か、代表者1人だけでほかに役員も従業員もいない法人であることも条件です。

取適法(旧・下請法)には、この期間の条件がありません。
ただし対象は、発注者がWeb制作会社や広告会社のように、制作を仕事として請け負ったり提供したりしていて、その一部をこちらに頼む取引です(取適法 第2条第3項)。
自社のサイトを頼むだけの会社は、多くの場合あたりません。
そのうえで、受ける側が個人の場合、発注者が資本金1,000万円を超える法人であるとき、または従業員が100人(プログラムの作成なら300人)を超える法人であるときにかかります(取適法 第2条第8項)。

  • 発注者が従業員を使う事業者などで、1か月以上の仕事:フリーランス法の第5条がかかる
  • 制作会社などから受ける仕事で、発注者が資本金1,000万円を超える法人など:期間にかかわらず取適法がかかる
  • どちらにもあたらない(発注者が一人で仕事をしている、など):民法と当事者の合意で考える

一方、発注したら条件を書面やメールで示す義務(フリーランス法 第3条)は、発注者の規模に関係なくかかります。

依頼が増えたら、条件を示し直す必要はあるか

フリーランス法の考え方とQ&Aを探しましたが、給付の内容を変えたときに、発注者が条件を示し直さなければならないと一般的に書いた箇所は見当たりませんでした。
近いのは、Q&Aの問42です。

業務委託事業者が特定受託事業者に対し、3条通知による明示を行ったといえる程度に委託内容を明らかにしていた場合には、取引の過程でより詳細な委託内容が確定したとしても、必ずしも特定受託事業者に、詳細な委託内容を改めて3条通知により明示する必要はありません。

公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法 Q&A」問42

ただしこれは、内容が「より詳しく決まった」場合の話です。
同じ問は続けて、後から決まった詳しい内容も伝えて、委託の内容をはっきりさせるよう努めることが「望まれます」と書いています。
ページや機能が増えるのは、詳しくなるのではなく範囲が広がる場面なので、この問がそのまま当てはまるとは言えないと考えています。

また、追加の依頼が新しい業務委託にあたるなら、第3条の明示はその新しい委託についてあらためて必要になります。
第3条は、業務委託をした場合は「直ちに」条件を示すよう定めています。

取適法の運用基準は、はっきりこう書いています。

(5) 当初の委託内容と異なる作業を要請することが新たな製造委託等をしたと認められる場合には、委託内容、代金の額等の明示事項を改めて明示する必要がある。

取適法の運用基準

フリーランス法の考え方には同じ趣旨の一文は見当たりませんでしたが、範囲が広がったら、追加の内容と金額を文字で示してもらうのが、どちらの法律の考え方にも沿うと考えています。

話し合いがまとまるまで、作業はどうするか

追加の金額について話がまとまらないうちに、作業をどうするか。
これを書いた法令は見当たりませんでしたが、IPA(情報処理推進機構)のシステム開発のモデル契約書が、ひとつの考え方を示しています。

協議期間中は、契約変更がなされているわけではないので、原則ベンダは、本契約及びその時点の個別契約の条件に従って開発作業を進めるべきこととなる。

IPA「情報システム・モデル取引・契約書〈第二版〉」第37条の解説

話し合いの間は、元の契約の条件で作業を進める、という整理です。
契約はまだ変わっていないので、追加の分は合意してから、と読めます。
発注者から中断を求められるなど特別な事情があれば、協議がまとまらない間は作業を中断できる、ともしています(第37条第4項)。

このモデル契約は、変更は書面の変更契約でだけ行うと定めていて、理由をこう書いています。

口頭による契約変更はトラブル発生の原因となるため、本条では、本契約及び個別契約に関するすべての契約内容の変更は、書面による変更契約の締結によるものとしている。

IPA「情報システム・モデル取引・契約書〈第二版〉」第33条の解説

IPAのモデル契約は、企業の基幹システムのような大きな開発を想定したひな型で、法令ではありません。
小さなサイト制作で毎回変更契約を結ぶのは現実的でないと思いますが、「追加の内容・金額・納期への影響を文字にして、同意をもらってから着手する」という考え方はそのまま使えます。

ガイドラインが書いている、途中で増えた場合と見積もりのあとで増えた場合

取適法がかかる取引向けですが、業種ごとのガイドラインは、場面ごとに書いています。
作業の途中で増えた場合について、経済産業省の情報サービス・ソフトウェア業向けのガイドラインは、こう書いています。

➢ 当初の委託内容にはない追加的な作業(契約外の作業)が必要となった場合に、委託事業者がその追加的な費用を負担しないことにより中小受託事業者の利益を不当に害するときは、不当な給付内容の変更に該当し、取適法違反となる。

経済産業省「情報サービス・ソフトウェア産業における中小受託適正取引等の推進のためのガイドライン」

見積もりのあと、発注する前に作業が増えた場合(先ほどの買いたたき②と同じ場面)については、広告業界向けのガイドラインに問答があります。

この質問の場合、中小受託事業者に見積りをさせた段階より作業内容が増えたにもかかわらず、製造委託等代金の額の見直しをせず、当初の見積価格を作業内容が増えた場合の製造委託等代金の額として定めたときは、買いたたきとなるおそれがあります。
したがって、中小受託事業者から申し出のあるなしにかかわらず、再見積りを取り単価の見直しを行う必要があります。

経済産業省「広告業界における取引適正化の推進のためのガイドライン」

取適法の運用基準にも、デザインの事例があります。

(1) 委託事業者は、中小受託事業者に対してデザインの作成を委託したところ、委託事業者の担当者が人事異動により交代し、新しい担当者の指示により委託内容が変更され追加の作業が発生したが、それに要した追加費用を委託事業者が負担しなかった。

取適法の運用基準 違反行為事例 8-7

担当者が代わって話が変わる、というのはWeb制作でもよく聞く場面です。
ただし、Webサイトの制作で追加作業の費用を負担しなかったことを名指しした事例は、運用基準には見当たりませんでした。

私の受注64件では、32件で依頼が増えていた

自分の記録を数えました。
受注した案件64件(進行中と納品済み。
自分のブログなど自社の案件9件を除く)のうち、契約したあとに当初の範囲を超える依頼が来た記録があるのは32件でした。
ページや機能の追加、対応範囲の広がり、新しい制作物の依頼などです。
当初の範囲の中での修正や、不具合への対応は数えていません。

契約後に増えた依頼の扱い件数
追加の見積もり・追加料金を出した16
無償で対応した(自分から無償を申し出たものを含む)14
断った・別の案件や契約にした15
扱いが記録から読めない依頼を含む11
2026年9月22日時点。依頼が増えた32件が母数。1件の中で依頼ごとに扱いが分かれるものは、それぞれに数えたので合計は32件を超える。扱いが1つも読めないものは5件。案件ごとに記録の前後を読んで判断した。受注64件には、記録が無く判断できない4件を含む(該当なしとして数えた)

追加の見積もりを出した件と、無償で対応した件は、ほぼ同じくらいありました(無償には、自分から無償を申し出たものも含みます)。

もう1つ分かったのは、追加分の見積もりを、ファイル名で分かる形にしていなかったことです。
ファイル名に「追加」と「見積」を両方含むものは1件だけで、それも受注前のやり取りで、追加分の見積もりではありませんでした。
中身を読んでいくと、追加分の見積もりにあたるもの(見積書と、見積もりを伝えた送信文面)は10案件で14件ありました。
あとから探すことを考えると、追加分は追加分と分かる名前で残しておくほうがよいと思いました。

契約書と募集には、どう書かれていたか

手元にある契約書4通(受注した案件のものが2通、商談中の案件が1通、失注した案件の合意書の案が1通。
自分で用意したもの2通、受け取ったもの2通)のうち、仕様の変更や追加の手続を定めていたものは3通、追加の費用を協議することまで書いていたものは2通でした(条項や文言は出しません)。

取り込んだ募集内容のファイル1,329件のうち、追加対応や追加料金、仕様変更の扱いに触れていたものは71件でした(判断に迷った23件は含めていません)。
書かれ方は、趣旨をまとめると次のようなものです(原文そのままではありません)。

  • 修正は2回まで報酬の中で、それ以降は別途見積もり
  • 大幅なページの追加や新しい機能など、当初の仕様を超える内容が必要になったら、別途相談して見積もる

募集の段階で、追加は別の見積もりだと書いてくれている発注者もいます。
そういう募集なら、追加の話は切り出しやすいはずです。

追加を頼まれたときに確かめたい4つ

ここまでをもとに、追加を頼まれたときに確かめたいことを並べます。

  • 当初の範囲に入っているか:見積書や仕様書、発注のときに示された条件(第3条の明示)で、何が最初の金額に入っていたかを確かめる。範囲が書かれていなければ、増えたかどうかも言えない
  • 追加の内容・金額・納期への影響を分けて示す:元の金額と分けて伝える
  • 文字で同意をもらってから着手する:契約は口頭でも成り立ちますが、公取委のQ&A(問37)も、業務委託の合意について、口頭でもよいが記録に残る方法によることが望まれるとしています
  • 話がまとまるまでは元の範囲を進める:IPAのモデル契約の考え方と同じです。無償で対応するなら、無償であることと、その範囲を文字で残しておく

伝えるときは、たとえば次のような短い文面で足ります。

「お知らせページの追加は◯円で承れます。
公開日は◯日後ろにずれます。
よろしければ、このメッセージへの返信でご了承ください」

まとめ

  • 契約後に依頼が増えたときの追加の報酬を、直接定めた条文は民法にもフリーランス法にもない。追加の分は、あらためて合意して決めるのが基本
  • フリーランス法では、受注者の側に理由が無いのに内容が増えて、発注者が追加の作業の費用を負担しないことは「不当な給付内容の変更」。見積もりのあとに増えたのに見直さないのは「買いたたき」のおそれ。どちらも、発注者が従業員を使う事業者などで、1か月以上の仕事に限る。制作会社などから受ける仕事で発注者の会社が大きければ、期間にかかわらず取適法も同じことを問題にしている
  • 範囲が広がったら、追加の内容・金額・納期への影響を文字で示し、同意をもらってから着手する。話がまとまるまでは元の範囲を進める

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この記事を書いた人

宮城県東松島市でひとりでWeb制作をやっています。Web業界10年、会社員時代に50を超えるプロジェクトを担当したのち独立。実際に使った道具と、迷って決めたことを書いています。

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