フリーランスでWeb制作をしていると、夏に「個人事業税」の納税通知書が届いた、という話を聞くことがあります。
一方で、同じようにWebの仕事をしていて、一度も届いたことがない人もいます。
Webデザイナーやコーダーの仕事に、個人事業税はかかるのか。
調べると「デザインならかかる」「プログラマーならかからない」という説明がよく出てきますが、その根拠はどこにあるのか。
迷ったことがあると思います。
先に結論を書きます。
- 個人事業税は、法律に並んだ業種にだけかかります。その表に「Web制作」という業種はありません。自分の仕事が、表のどれかに当たるかで決まります
- Webのデザインは「デザイン業」、コーディングやプログラムの仕事は「請負業」に当たるかどうかが分かれ目です。どちらに当たっても、税率は標準で5%です
- 「プログラマーはかからない」とは言い切れません。福井県は、請負業の例に「プログラマ、システムエンジニア」を、デザイン業の例に「ホームページデザイン」を挙げています。ただ、請負業の基準の書き方は都道府県によって違い、確認したほかの15都道府県の公式ページには、プログラマーの扱いは見当たりませんでした
- 所得が290万円以下なら、どの業種でもかかりません。ただし、青色申告特別控除は差し引けないので、所得税の所得より大きい金額で比べることになります
ふだんはフリーランスでWeb制作をしています(運営者情報)。
ここに書くのは、地方税法と政令、総務省の通知、都道府県の説明、裁判所の判決と東京都の審査会の答申で確かめたことと、自分の案件記録を数えたことだけです。
2026年10月1日時点の情報で、個人事業税の扱いは事務所のある都道府県が決めます。
個人事業税は、法律に並んだ業種にだけかかる
個人事業税は、住民税や所得税とは別の、都道府県の税金です。
地方税法は、かかる事業をこう定めています。
個人の行う事業に対する事業税は、個人の行う第一種事業、第二種事業及び第三種事業に対し、所得を課税標準として事務所又は事業所所在の道府県において、その個人に課する。
地方税法 第72条の2第3項
第一種から第三種の事業は、同じ条の第8項から第10項に、業種の名前で並んでいます。
物品販売業、請負業、印刷業、広告業、弁護士業、コンサルタント業、デザイン業といった形です。
東京都主税局は、これを「法定業種」と呼んで一覧にし、こう書いています。
現在、法定業種は70の業種があり、ほとんどの事業が該当します。
東京都主税局「個人事業税」
一方で、表にない仕事には、個人事業税はかかりません。
東京地裁の令和7年3月4日の判決(令和6年(行ウ)第118号)は、第一種から第三種の事業は第8項から第10項に「限定列挙されている」と述べています。
表に書かれていない業種まで広げて課税することはない、という意味です。
そして、表のどこにも「Web制作」「ホームページ制作」「プログラマー」という業種はありません。
Web制作の仕事にかかるかどうかは、その中身が、表にあるどれかの業種に当たるかで決まります。
Webの仕事で候補になるのは、主に「デザイン業」と「請負業」の2つです。
Webデザイナーの仕事は「デザイン業」に当たりうる
デザイン業は第三種事業の1つです(第72条の2第10項第16号の3)。
その範囲は、政令で決まっています。
法第七十二条の二第十項第十六号の三に掲げる事業は、継続して、対価の取得を目的として、デザイン(物品のデザイン、装飾に係るデザイン又は庭園若しくはこれに類するものに係るデザインをいう。)の考案及び図上における設計又は表現を行う事業とする。
地方税法施行令 第15条の2第2項
総務省が都道府県に示している取扱いの通知は、デザインの具体的な中身をこう挙げています。
なお、デザインには、具体的には、工業デザイン、クラフトデザイン、グラフィックデザイン、パッケージデザイン、広告デザイン、インテリアデザイン、ディスプレイ、服飾デザイン及び庭園等のデザインが該当するものであること。
総務省「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」第3章 2の1(16)
ここに「Web」や「ホームページ」という言葉はありません。
ただ、グラフィックデザインと広告デザインは入っています。
都道府県の説明では、福井県が第三種事業の認定の基準の中で、デザイン業の例をこう並べています。
工業デザイン(機械設計)、クラフトデザイン、グラフィックデザイン、パッケージデザイン、広告デザイン、ホームページデザイン、インテリアデザイン、CADデザイン、建築パース業、イラスト制作、LINEスタンプ等の制作販売、被服等の商品デザイン
福井県「【第三種事業】業種の認定基準について」
ホームページのデザインを名指ししている公式の説明は、確認した中ではこれだけでした。
ほかの都道府県が同じ扱いをしているかは、説明が無いので分かりません。
とはいえ、Webサイトのデザインカンプを作る仕事は、政令の「デザインの考案及び図上における設計又は表現」に近い、と考えるのが自然だと思います。
東京都の扱いにも手がかりがあります。
東京都行政不服審査会の答申(イラスト制作の件)によると、東京都の内部の手引き(個人事業税課税事務提要)は、イラストはグラフィックデザインの範囲に含まれ、原則としてデザイン業の対象としています。
対象から外すのは、雑誌や書籍の文章を補うさし絵と同じ役割のもので、広告や宣伝のために入れるものは除かれます。
この件は、求人雑誌のイラストを描いていた人が「文章を補うさし絵だ」と主張したものでしたが、答申は、読者の就職の意欲を喚起するための広告に使われたもので課税の対象、と判断しました。
同じ「絵を描く」仕事でも、何に使われるかで扱いが分かれます。
コーディングやプログラムの仕事は「請負業」に当たるかで決まる
デザインを作らず、支給されたデザインをコーディングする、WordPressで組む、機能を作る。
こうした仕事は、デザイン業の定義には当たりにくいと考えられます。
そこで問題になるのが、第一種事業の「請負業」(第72条の2第8項第14号)です。
請負業の範囲を定めた政令はありません。
総務省の通知は、請負業をこう定義しています。
請負業とは、その事業が通常請負契約によって行われるものをいうものであること。
総務省「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」第3章 2の1(7)
同じ項目は続けて、大工・左官・とび職などが請負業に当たるかは国の税務署の扱いに準ずる、としています。
Web制作について書かれた部分はありません。
完成を約束して報酬を受けるWeb制作の契約は、請負の形になっていることが多いと思います。
ただ、請負の契約で仕事をしていれば必ず請負業になる、とまでは通知に書かれていません。
具体的な基準は、都道府県ごとに書き方が違います。
福井県は、プログラマとシステムエンジニアを請負業の例に挙げている
福井県の第一種事業の認定の基準は、請負業の「業種の主な例」の「その他のサービス業務」に、こう書いています。
清掃、ビル管理、警備、医療保険事務、通関、翻訳(翻訳作家を除く)、新聞の広告折込、廃棄物処理、キーパンチャー、プログラマ、システムエンジニア(常駐SEのうち、準委任契約(システムやソフトウェア等の保守管理)により事業を行う場合はコンサルタント業に該当)
福井県「【第一種事業】業種の認定基準について」
福井県では、プログラマとシステムエンジニアは請負業の例で、保守管理を準委任で受ける常駐のシステムエンジニアはコンサルタント業(第三種)の扱いです。
どちらも法定業種なので、「プログラマーだからかからない」とはなりません。
東京都・大阪府・神奈川県・愛知県・福岡県・兵庫県・京都府・北海道など、福井県を含めて16都道府県の公式ページと、総務省の通知を当たりました。
プログラマーやシステムエンジニアの扱いを書いていたのは、福井県だけでした。
ほかの15都道府県がどう扱うかは、当たったページからは分かりません。
「プログラマーは法定業種ではないのでかからない」という説明は、確認した公式の資料の中には見つかりませんでした。
神奈川県は、4つの要件をすべて満たすかで見る
個人の方が行う事業が、次の(1)から(4)の要件をすべて満たす場合は、「請負業」として個人事業税の課税対象となります(注意)。
神奈川県「個人事業税の請負業について」
- (1)仕事の完成を目的とした契約に基づき収入を得ていること
- (2)資本的経営を行っていること
- (3)仕事の計画及び遂行について独立性を有すること
- (4)危険負担を有すること
神奈川県の説明では、判定は所得税の申告書や決算書の内容で行い、仕事の内容を確かめるために照会の文書を送ることがある、とも書かれています。
東京都は、事務所や従業員があれば独立性ありとみる
東京都行政不服審査会の答申(令和2年2月、内装の仕事の個人事業税)は、東京都の課税事務提要の請負業の基準を引用しています。
事務所等を有する者、又は従業員を雇用し若しくは事業専従者を有する者は、独立して事業を行っているものと認められることから、請負業と認定する。
東京都行政不服審査会 答申(令和2年2月・請負業)に引用された東京都個人事業税課税事務提要
神奈川県の「4つをすべて満たす」と比べると、事務所があるか、人を雇っているかで判断する形で、読み方によっては広く当たりうる書き方です。
事務提要そのものの公開版は見つからず、答申に引用された時点の文面しか確かめられていません。
この答申の件は、一人で内装の仕事をしていた人が、請負業として課税されたことに不服を申し立てたものです。
本人は、事務所は自宅のアパートを使っていて、今は一人だと主張していました。
内装の仕事は大工などと同じ扱いで、答申は通知の「国の税務官署の取扱いに準ずる」という部分と、上の事務提要の基準に沿って、請負業に当たると判断しました。
理由の1つに、次の点を挙げています。
自宅内に事務所を設け、内装業に必要な経費として、青色申告決算書に事務所に係る地代家賃を計上していることが認められる。
東京都行政不服審査会 答申(令和2年2月・請負業)
内装の仕事の例で、Web制作にそのまま当てはまるとは限りません。
ただ、自宅で仕事をして家賃の一部を経費にしている人は多いと思います。
東京都では、自宅の仕事場も「事務所等」の判断材料になりうる、ということは知っておいてよいと考えています。
自分の仕事を数えると、デザインと実装は混ざっていた
自分の仕事がどちらに近いのかを見るために、受注した案件66件(自社のサイトの案件を除く)の記録を、作業の中身で分けました(2026年10月1日時点。
1件が複数に当たることがあります)。
| 作業の中身 | 件数 |
|---|---|
| デザイン(自分で作った) | 20件 |
| コーディング・WordPressなどの実装 | 46件 |
| システム開発・プログラム | 19件 |
| 運用・保守・更新 | 12件 |
| SEO・記事・その他 | 15件 |
デザイン・実装・システム開発のどれかを含むものは55件でした。
デザインと実装の組み合わせで見ると、両方を自分でやったものが18件、実装だけが28件(デザインが支給されたもの11件、既存サイトのデザインのまま直したもの14件、デザインの出どころが記録から分からないもの3件)、デザインだけが2件、どちらも無いもの(システムだけ・記事など)が17件でした。
福井県の例に当てはめると、デザインの仕事はデザイン業、プログラムの仕事は請負業の例に当たり、コーディングもそれに近い仕事です。
どちらの業種も税率は同じ5%です。
1人のWeb制作者の仕事の中に、デザイン業に当たりそうなもの、請負業に当たるかが問われるもの、記事の執筆のようにどちらでもなさそうなものが混ざっています。
課税される事業とされない事業を一緒にしている場合の計算は、決まっています。
総務省の通知は、課税事業と非課税事業を併せて行う個人の所得について、経理を分けられない場合は、売上金額など最も妥当と認められる基準で按分する扱いに準ずる、としています(第3章 11の11・4の8の4)。
東京都の事務提要も、経理が分かれていなければ、売上総利益(算定できなければ売上金額)で按分して課税される部分の所得を出す、としています(イラストの件の答申に引用)。
分からないのは、1件の仕事の中にデザインも実装もあるとき、その仕事をどの業種と見るかです。
これを説明した公式の資料は、確認した範囲では見つかりませんでした。
自分の仕事がどう扱われるかは、事務所のある都道府県の県税事務所(東京都なら都税事務所)に聞くのが確実だと考えています。
かかるとしたら、いくらか
税率は、デザイン業(第三種)も請負業(第一種)も、標準税率は5%です(地方税法 第72条の49の17第1項)。
都道府県は標準税率より高くできますが、その1.1倍までです(同じ条の第3項)。
そして、事業を行う人は、所得から290万円を差し引けます(事業主控除、第72条の49の14第1項)。
1年の途中で始めた場合は月割りです。
所得が290万円以下なら、業種にかかわらず個人事業税はかかりません。
注意したいのは、青色申告特別控除です。
東京都主税局はこう説明しています。
個人の事業税には青色申告特別控除の適用はありませんので、所得金額に加算します。
東京都主税局「個人事業税」
たとえば、青色申告で65万円の控除を受けて、所得税の事業所得が300万円だったとします。
ほかの控除が無く、仕事の全部が法定業種に当たるとすれば、個人事業税の計算では65万円を足し戻した365万円から290万円を引いた75万円に5%をかけて、3万7,500円です。
所得税の申告書の所得が290万円を下回っていても、かかることがあります。
申告と納税、経費にする時期
- 申告:所得税の確定申告書を出していれば、個人事業税の申告もしたものとみなされます(地方税法 第72条の55の2第1項)。別に申告書を出す必要は、原則としてありません。神奈川県は、請負業に当たるかをこの申告書と決算書の内容で判定するとしています
- 納税:納期は8月と11月の中で、都道府県の条例で決まります(第72条の51第1項)。東京都は8月に納税通知書を送り、第1期の納期限を8月31日、第2期を11月30日としています
- 経費にする時期:個人事業税は所得税の必要経費になります。国税庁の所得税基本通達は、納期が分かれている税について、こう定めています
賦課課税方式による租税のうち納期が分割して定められている税額 各納期の税額をそれぞれ納期の開始の日又は実際に納付した日の属する年分の必要経費に算入することができる。
所得税基本通達 37-6(3)
ある年の所得にかかる個人事業税は、翌年の8月以降に納期が来るので、原則として翌年分の経費になります(納期ごとの税額を、納期の開始の日か実際に納めた日の年に入れます)。
事業をやめた年だけは、見込みの額をその年の経費にできます(同じ通達の37-7)。
まとめ:表に当てて、分からなければ都道府県に聞く
- 個人事業税は、法律に並んだ業種にだけかかる。表に「Web制作」は無い
- Webのデザインは「デザイン業」に当たりうる。福井県は「ホームページデザイン」を例に挙げている
- コーディングやプログラムの仕事は「請負業」に当たるかで決まる。福井県はプログラマとシステムエンジニアを請負業の例に挙げている
- 請負業の基準の書き方は都道府県で違い、プログラマーの扱いを書いた公式の説明は、確認した16都道府県では福井県だけだった
- 所得が290万円以下ならかからない。ただし青色申告特別控除は足し戻して比べる
納税通知書が届いて納得できないときは、どの業種として認定されたのかを県税事務所に確かめることができます。
納税通知書が届かなくても、それで「かからない」と確定したわけではありません。
個人事業税の前に、そもそも所得をどう計算するかでつまずくことがあります。
クラウドソーシングの手数料の扱いは「クラウドソーシングの売上は、手数料が引かれる前と後のどちらで申告するのか」に、報酬から引かれる税金は「Web制作の報酬は源泉徴収されるのか」に書いています。
