見積書の有効期限が過ぎたら、その見積もりはどうなるのか。期限を書いた見積もりと書かなかった見積もりの違い

「御見積書」の書類の線図から時間の線へ点線が下り、「発行」から「期限」までに「承諾の期間」と「第523条」の寸法線が添えられ、期限の先の破線に「失効」と書かれた線図と、見積書の有効期限という見出し

見積もりを出してから2か月ほどたって、「先日の見積もりの内容でお願いします」と連絡が来たとします。
そのあいだに予定が埋まっていたり、使うつもりだったサービスの料金が変わっていたりすると、同じ金額・同じ納期では受けにくいことがあります。
見積書に書く「有効期限」は、こういうときに何を決めているのか。
民法の契約の成立の条文と、法務省の説明資料で確かめました。

先に結論を書きます。
ここでの「見積もり」は、作業の範囲・金額・納期が書かれ、相手が「お願いします」と返せばそのまま決まるものを、民法の「申込み」と読んだ場合の話です(この読み方は本文で書きます)。

  • 見積書の有効期限を何日にするかは、民法では決まっていません。民法の申込みと承諾の条文(第522条〜第528条)に日数の定めは無く、民法の全文にも「見積書」という言葉は出てきません。期限を書くか、何日にするかは、見積もりを出す側が決めることです
  • 期限を書いた見積もりは、期限までに相手の承諾が届かなければ効力を失います(民法 第523条第2項)。その代わり、期限のあいだは、撤回する権利を残しておかない限り撤回できません(同条第1項)
  • 期限を書かなかった見積もりは、承諾を受けるのに相当な期間がたつまで撤回できません(第525条第1項)。民法で「申込みは、その効力を失う」と書かれているのは、期限を定めた場合(第523条第2項)と、対話の相手にした申込み(第525条第3項)の2か所です。メールや書面で期限を書かずに送った見積もりを使われたくなければ、撤回の連絡をしておくのが確実だと考えています
  • 期限が過ぎてから「お願いします」と言われても、それだけでは契約は成立しません。出した側は、その返事を新しい申込みとみなして受けることも(第524条)、条件を出し直すことも、断ることもできます
  • 「この金額なら」と条件を変えて返された場合は、元の見積もりを断ったうえでの新しい申込みとみなされます(第528条)。

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弁護士ではないので、ここに書くのは、法令と法務省の資料の原文で確かめたことだけです。
2026年10月23日時点の情報です。
この記事は、発注者と直接やり取りして見積書を出す場面を前提にしています。
クラウドソーシングで契約が決まる手順は各社の規約によるので、ここでは扱いません。
自分の場合にどう当てはまるかは、弁護士などの専門家に確かめてください。

目次

見積書の有効期限は、民法の「承諾の期間」にあたる

民法 第522条第1項は、契約は「契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する」と定めています。
契約は書面でなくても成立します(同条第2項。
法令に特別の定めがある場合を除く)。
民法の条文はe-Gov 法令検索で読めます。

作業の範囲・金額・納期が書かれていて、相手が「この内容でお願いします」と返せばそのまま決まる見積書は、この「申込み」にあたると読むのが自然だと私は考えています。
一方で、「概算」「詳しくはお打ち合わせのあとで」と書いた見積もりは、締結を申し入れているとまでは読みにくいかもしれません。
民法の条文には、見積書がどこから申込みにあたるかの基準は書かれていないので、ここは私の読み方です。

見積書に書く「有効期限」は、民法の言葉でいう「承諾の期間」にあたると私は読んでいます。
民法は、承諾の期間を定めた申込み(第523条)と、定めない申込み(第525条)を分けて決めているので、期限を書いたかどうかで扱いが変わります。

期限を書いた見積もりは、期限までに返事が届かなければ効力を失う

申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。

民法 第523条第2項

「承諾の通知を受けなかった」かどうかは、相手の返事が出した側に届いたかで決まります。
意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生ずるからです(第97条第1項)。
期限の最終日に「お願いします」の連絡が届けば期限内の承諾で、届いたのが期限の翌日なら間に合っていません。
相手が送った時ではなく、こちらに届いた時で考えます。

2020年3月31日までの民法では、隔地者(意思表示が届くまでに時間がかかる相手)との契約は、承諾の通知を発した時に成立するとされていました(発信主義)。
法務省の説明資料「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」によると、2020年4月1日施行の改正でこの規定(改正前の第526条第1項)が削除され、隔地者間の場合でも、承諾の意思表示が相手方に到達した時に効力が発生する形になりました。
改正前の解説で、承諾を発信した時に成立すると書かれていても、いまの民法では届いた時で考えます。

期限のあいだは、出した側も撤回できない

第523条第1項は、承諾の期間を定めてした申込みは撤回することができない、としています。
ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは別です(同項ただし書)。
期限を30日と書いたら、その30日のあいだは、相手がまだ返事をしていなくても、出した側の都合で取り下げることはできない、ということです。

期限のあいだに予定や料金が変わるおそれがあるなら、見積書に「この見積もりは、期限内でも撤回することがあります」のように書いておく方法があります。
これが同項ただし書の「撤回をする権利を留保した」にあたると私は読んでいます。
ただ、相手からは「いつ取り下げられるか分からない見積もり」に見えるので、期限を短めにするほうが分かりやすいと考えています。

期限は「発行日から30日」より、日付で書く

期限を「発行日から30日」と書くと、数え方の問題が残ります。
民法では、日で期間を定めたときは初日を数えず(第140条。
期間が午前0時から始まる場合を除く)、期間はその末日の終了で満了します(第141条)。
2026年10月23日(金)に出した見積もりなら、10月24日から数えて30日目は11月22日です。
この日は日曜日で、期間の末日が日曜日や祝日などに当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り翌日に満了する、という定めもあります(第142条)。
その翌日の11月23日も勤労感謝の日で休日(国民の祝日に関する法律 第2条・第3条第1項)なので、ここでも数え方の問題が残ります。
見積書に数え方を書いていれば、そちらによります(第138条の「法律行為に別段の定めがある場合」)。

「2026年11月20日(金)まで」のように日付で書けば、こうした数え方を相手と合わせる必要がありません。

期限を書かなかった見積もりは、相当な期間がたつまで撤回できない

承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。
ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。

民法 第525条第1項

相当な期間が何日かは、条文には書かれていません。
そして、この項が決めているのは「撤回できない期間」で、見積もりが自然に効力を失う時期ではありません。
民法の全文で「申込みは、その効力を失う」と書かれているのは、期限を定めた申込みの第523条第2項と、対話の相手にした申込みの第525条第3項の2か所です(第526条には、申込者が申込みの通知を発したあとに死亡した場合などで、一定の条件に当たるときに申込みが効力を有しないとする定めがあります)。
メールや書面で期限を書かずに送った見積もりがいつ効力を失うかは、民法の条文には書かれていません。

商人である隔地者の間では、商法 第508条第1項が、承諾の期間を定めないで契約の申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなかったときは、その申込みは効力を失う、としています。
フリーランスのWeb制作者が商法の「商人」(第4条第1項)にあたるかは、この記事では判断しないので、条文の場所を挙げるだけにします。

何か月も前の見積もりで「お願いします」と言われたくなければ、次のどちらかをしておくのが確実だと考えています。

  • はじめから有効期限を書いておく
  • 期限を書かずに出した見積もりは、相当な期間が過ぎたあとに「先日の見積もりは取り下げます。ご依頼の際は改めてお見積もりします」と撤回の連絡をしておく。第525条第1項を裏から読むと、相当な期間が過ぎれば撤回できる、ということになります。撤回の連絡も、相手に届いた時に効力が生じます(第97条第1項)

打ち合わせの場で伝えた金額は、その場で決まらなければ効力を失う

第525条第2項・第3項は、対話者に対してした期限の無い申込みについて、対話が続いているあいだはいつでも撤回でき、対話が続いているあいだに承諾が無ければ効力を失う、としています(申込者が、対話の終了後も効力を失わない旨を表示したときは別です)。
誰が対話者にあたるかは、法務省の説明資料が次のように書いています。

意思表示が到達するまでに時間を要する者を「隔地者」と、要しない者を「対話者」という。
空間的な距離ではなく時間が判断の基準となるため、電話の相手方は対話者となる。

法務省「民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-」

ビデオ会議で金額を伝えた場合も、時間をかけずに伝わる点は電話と同じなので、同じように考えられると私は読んでいます。
打ち合わせで「この範囲なら30万円(税抜)でお受けできます」と伝えて、その場で決まらなかったなら、その金額は打ち合わせが終わった時点で効力を失う、ということになります(「打ち合わせのあとも、この金額のままでご検討ください」のように、終わったあとも効力を失わない旨を伝えた場合を除きます)。
後日あらためて見積書を送るなら、それが新しい申込みです。

期限が過ぎてから「お願いします」と言われたら

期限が過ぎた見積もりは効力を失っているので、相手が期限後に「この内容でお願いします」と言っても、それだけでは契約は成立しません。
法務省の説明資料も、「申込みが撤回され、又はその効力の消滅後に承諾があっても、契約は成立しない。」と説明しています。

そのうえで、第524条は「申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる。」としています。
期限後の返事を、相手からの新しい申込みとして扱えるということです。
出した側は、次のどれかを選べます。

  • 同じ内容で受ける:期限後の返事を新しい申込みとみなして、「承知しました。その内容でお受けします」と承諾する
  • 条件を出し直す:期限が過ぎているので、いまの予定や料金で改めて見積もりを出す。これは、こちらからの新しい申込みになる
  • 断る:第524条は「みなすことができる」なので、新しい申込みとして受けるかどうかは出した側が決められる

ただし、商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく諾否の通知を発しなければならず、怠ると承諾したものとみなされる、という定めもあります(商法 第509条)。
自分が商人にあたるかどうかにかかわらず、いつもの取引先から期限後に返事が来たら、黙っておかずに、受けるか受けないかを早めに返しておくのが安全だと考えています。
メールで返しておけば、あとで「期限内だった」「期限後だった」で食い違ったときの記録にもなります。

条件を出し直すときは、金額を税込・税抜のどちらで書くかもあわせて確かめておくと、行き違いが減ります。
見積もりの金額の書き方と、見積書・請求書の作成サービスの条件は、見積もりの金額は、税込と税抜のどちらで書くのかにまとめています。

「この金額なら」と返されたら、元の見積もりは断られたことになる

相手が見積もりにそのまま応じるのではなく、「25万円なら」「納期を2週間早めてもらえるなら」と条件を変えて返してきた場合は、第528条が当てはまります。

条文は「承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす。」です。
条件を変えた返事は、元の見積もりを断ったうえでの、相手からの新しい申込みです。
こちらが応じれば、変えた条件で契約が成立します。

応じずに話がまとまらなかったあとで、相手が「やはり最初の見積もりの金額で」と言ってきても、元の見積もりは一度断られているので、それだけで最初の条件の契約が成立することにはならないと私は読んでいます。
受けるなら、その返事を新しい申込みとして承諾するか、こちらから見積もりを出し直す形になります。
値下げを求められたときの答え方は、見積もりの値下げを求められたときの答え方にまとめています。

まとめ:見積書の有効期限について決めておくこと

内容が決まった見積書を民法の「申込み」と読んだ場合の整理です。

  • 有効期限の日数は民法で決まっていない。民法の申込みと承諾の条文(第522条〜第528条)に日数の定めは無く、何日にするかは出す側が決める
  • 有効期限は日付で書く(「2026年11月20日(金)まで」)。「発行日から30日」と書くと、初日を数えるか(第140条)、末日が日曜日などのとき(第142条)の数え方が残る
  • 期限を書いた見積もりは、期限までに承諾が届かなければ効力を失う。期限のあいだは、撤回する権利を残しておかない限り撤回できない(第523条)。承諾は届いた時に効力が生じる(第97条第1項)
  • 期限を書かなかった見積もりは、相当な期間がたつまで撤回できない(第525条第1項)。いつ効力を失うかは民法の条文に書かれていないので、使われたくなければ撤回の連絡をしておく。打ち合わせで伝えた期限の無い金額は、その場で決まらなければ効力を失う(同条第3項。終わったあとも効力を失わない旨を伝えた場合を除く)
  • 期限後の「お願いします」は、新しい申込みとみなして受けても、出し直しても、断ってもよい(第524条)。いつもの取引先には早めに返事をする(商人の場合は商法 第509条)
  • 条件を変えた返事は、元の見積もりを断ったうえでの新しい申込みとみなされる(第528条)

契約は書面でなくても成立するので(第522条第2項)、見積もりに「お願いします」「承知しました」と返し合った時点で決まることがあります。
決まったあとで作業が増えたときの扱いは、作業の途中で依頼が増えたら、追加料金を請求できるのかにまとめています。

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この記事を書いた人

宮城県東松島市でひとりでWeb制作をやっています。Web業界10年、会社員時代に50を超えるプロジェクトを担当したのち独立。実際に使った道具と、迷って決めたことを書いています。

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