フリーランスの報酬は、払われないまま何年たつと請求できなくなるのか

右上の角を折った請求書から点線が下りて「支払期日」の目盛りにつながり、1年ごとの目盛りが付いた右向きの線の上に「5年」の寸法線が添えられた線図と、報酬の時効という見出し

年末は、その年の売上と入金を見直す時期です。
入金されていない請求書の中に何年も前の分が混ざっていたら、まだ請求できるのか。
報酬を受け取る権利は、民法の消滅時効で、一定の期間がたつと消えることがあります。
何年で消えるのか、どうすれば止められるのかを、条文と法務省の資料で確かめました。

先に結論を書きます。

  • 報酬の請求権は、原則として支払期日から5年で時効にかかると考えられます。民法は、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年のどちらか早いほうで、債権が時効によって消滅すると定めています(民法 第166条第1項)。法務省の説明資料は、売買代金などの契約上の債権を、この2つの時点が基本的に同じになる例に挙げ、その時点を支払期限の到来時としています。報酬も同じ形だと私は読んでいます
  • 2020年4月1日より前に生じた報酬は、改正前の規定で数えます。その前に結んだ契約に基づいて、あとから生じた報酬も含みます(平成29年法律第44号 附則 第10条)
  • 5年たっても、自動で消えるわけではありません。時効は、相手が援用しなければ、裁判所はそれによって裁判をすることができません(民法 第145条)
  • 時効の完成を止める方法は、条文で決まっています。裁判の外で請求する催告は6か月だけ(第150条)。書面やメールで「協議を行う」と合意すれば最長1年ずつで、重ねても本来の完成時から通算5年まで(第151条)。相手が支払う義務を認めれば、そこから数え直し(第152条)。裁判の手続きは終わるまで完成せず、判決などで確定すれば時効期間は10年になります(第147条・第169条)
  • フリーランス法と取適法には、時効の定めがありません。どちらも現行の全文で「時効」は0件でした。報酬の請求権の時効は、民法で考えることになります

ふだんはフリーランスでWeb制作をしています(運営者情報)。
弁護士ではないので、ここに書くのは、法令と公的な資料の原文で確かめたことだけです。
2026年10月15日時点の情報です。
体験談ではなく、条文から言えることを整理したものです。
自分の取引にどう当てはまるかの判断が必要な場面では、弁護士などに確かめてください。

目次

報酬の時効は、支払期日から5年が原則

報酬を受け取る権利は、民法でいう「債権」です。
債権がいつ時効で消えるかは、民法 第166条第1項が決めています(民法の条文はe-Gov 法令検索で読めます)。

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

民法 第166条第1項

時計が2つあり、どちらか早く来たほうで時効が完成する、という形です。

報酬の場合、この2つの時点はたいてい重なります。
法務省民事局の説明資料(「民法(債権関係)の改正に関する説明資料 -重要な実質改正事項-」)は、「権利を行使することができることを知った時と権利を行使することができる時とが基本的に同一時点であるケース」の例として「売買代金債権、飲食料債権、宿泊料債権など契約上の債権」を挙げ、その時点を「支払期限到来時」と書いています。
Web制作の報酬も契約に基づく債権なので、私は同じ形だと読んでいます。
支払期日が来れば、受け取る側はその日に請求できることを知っているからです。

つまり、請求書に書いた支払期日(契約で決めた支払期日)から5年が、ひとつの目安になります。
私の計算では、この記事の時点(2026年10月15日)で、支払期日が2021年10月15日より前の報酬は、途中で次の節以降の手を打っていなければ、すでに5年が過ぎています。
2021年10月15日から2022年10月14日までに支払期日が来た報酬は、これから1年以内に5年になります。
日の単位でいつ満了するかは、民法の期間の数え方(第140条の初日を算入しない決まり、第143条の暦に従って計算する決まり)で決まります。
ぎりぎりの日を自分で計算して待つより、余裕をもって手を打つほうが確実だと考えています。

支払期日を決めていなかった請負の報酬は、民法 第633条で、原則として「仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない」とされています(物の引渡しを要しないときは第624条第1項を準用する、というただし書きがあります)。
保守・運用のように委任(準委任)の形で受ける仕事は、請負の条文であるこの第633条の対象ではありません。
期日を決めていない場合に5年をどの時点から数えるかを書いた資料は、今回読んだ範囲にはありませんでした。
期日を決めていない取引が残っている場合は、専門家に確かめてください。

改正前の「職業ごとの短い時効」は、2020年4月になくなった

今の5年の形は、2020年4月1日に施行された民法の改正(平成29年法律第44号)で入ったものです。
法務省のパンフレットは、改正の中身をこう説明しています。

今回の改正では,消滅時効期間について,より合理的で分かりやすいものとするため,職業別の短期消滅時効の特例を廃止するとともに,消滅時効期間を原則として5年とするなどしています。

法務省「民法(債権法)改正 2020年4月1日から債権法(民法の契約等に関する部分)が変わります」

改正前は、原則の10年とは別に、職業ごとに短い時効がありました。
同じパンフレットは「弁護士報酬は2年,医師の診療報酬は3年など」を例に挙げ、表では商取引債権を5年としています。
パンフレットと説明資料は、法務省の民法の一部を改正する法律(債権法改正)についてのページにまとめて置かれています。
時効について読むときは、改正の前と後のどちらの規定の話なのかを確かめてください。

改正前に生じた報酬は、今でも改正前の規定で数えます。
改正法の附則 第10条第4項です。

施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。

民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)附則 第10条第4項

ここでいう「施行日前に債権が生じた場合」には、同じ条の第1項で「施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたとき」も含むとされています。
2020年3月31日までに結んだ契約に基づく報酬は、支払期日が4月以降でも、改正前の規定で数えることになります。
附則 第10条で改正前の規定によるとされているのは、時効の期間(第4項)、時効の援用(第1項)、施行日前に生じた時効の中断・停止の事由の効力(第2項)で、改正後に入った協議の合意(第151条)は、施行日前にされた合意には適用しない(第3項)とされています。
そこまで古い報酬が残っている場合に改正前の規定で何年になるかは、この記事では扱いません。
専門家に確かめてください。

5年たっても、時効は自動では効かない

5年が過ぎたら、その報酬はその瞬間に消えるのか。
条文の形は、そうなっていません。

民法 第145条は、「時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。」と定めています。
援用は、時効の利益を受ける側(報酬でいえば払う側の発注者)が、時効を主張することです。
5年たった時点で自動的に効くのではなく、相手が援用して初めて問題になる、という仕組みです。

ただ、5年を過ぎたあとに相手が援用すれば、裁判で支払いを求めても時効を前提に判断されることになります。
5年が過ぎるのを待たずに、次の節の方法で時効の完成を止めておくのが筋だと考えています。

報酬の時効の完成を止めるために使いやすいのは、条文の4つの方法

改正後の民法は、時効について「完成猶予」と「更新」という2つの言葉を使っています。
完成猶予は、その間は時効が完成しないこと。
更新は、それまでの期間がリセットされ、新たに時効が進み始めることです。
法務省の説明資料は、改正前の「中断」の効果を、この2つに振り分けたと説明しています。

報酬の請求で使えそうな方法を、条文から並べると次のとおりです。

方法どうなるか条文
催告(裁判の外で支払いを求める)催告の時から6か月を経過するまで、時効は完成しない。猶予されている間の再度の催告では延びない民法 第150条
協議を行う旨の合意(書面か、メールなどの電磁的記録)合意から1年、1年未満の協議期間を決めたらその期間、続行を拒絶する通知が書面でされたらその時から6か月、のいずれか早い時まで完成しない。猶予の間に再び合意すれば延びるが、本来時効が完成すべき時から通じて5年まで民法 第151条
承認(相手が支払う義務を認める)承認の時から、時効が新たに進行する民法 第152条
裁判上の請求・支払督促など手続きが終わるまで完成しない。判決などで権利が確定すれば、終わった時から新たに進行し、時効期間は10年になる民法 第147条・第169条
報酬の請求で使えそうな、時効の完成猶予と更新の方法(民法の条文から。強制執行・仮差押えなどは省いた)

以下、1つずつ条文を見ます。

催告:請求しても、延びるのは6か月だけ

催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

民法 第150条第1項

同じ条の第2項は、「催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。」としています。
請求を何度も繰り返せば時効が延び続けるわけではなく、6か月のあいだに次の手を打つ必要がある、ということです。
また、猶予は「催告の時から6か月」なので、5年の満了がまだ先のうちに催告しても、満了の時期は変わらないと読めます。
催告が意味を持つのは、満了が6か月以内に迫っているときです。

法務省の説明資料は、催告の例として、債権者が「内容証明郵便等により裁判外で」返済を請求した場合を挙げています。
条文そのものは、催告の方法を決めていません。
ただ、あとで「いつ請求したか」を示す場面を考えると、日付と中身が残る形で送っておくのがよいと考えています。
内容証明で何が証明され、何が証明されないかは、フリーランスの入金が遅いときにやることに書きました。

協議の合意:メールでも、合意が残れば最長1年ずつ(本来の完成時から通算5年まで)

支払いについて話し合いが続いているあいだに5年が来そうなとき、裁判を起こさずに時効の完成を止める方法が、2020年4月の改正で入りました。

権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から一年を経過した時 二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時 三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時

民法 第151条第1項

「書面」とありますが、同じ条の第4項で、合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、書面によってされたものとみなすとされています。
法務省の説明資料も、「当事者間で権利についての協議を行う旨の合意が書面又は電磁的記録によってされた場合」に時効の完成が猶予される、と説明しています。
メールで合意した場合も、ここに入るということです。

猶予されている間にもう一度合意すれば、また猶予されます。
ただし第2項のただし書きで、その効力は「時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない」とされています。
また第3項で、催告で猶予されている間にした合意には、この猶予の効力がありません(逆に、合意で猶予されている間にした催告も同じです)。
催告で6か月延ばしてから協議の合意を重ねる、という使い方はできない、ということです。

どんな文面なら「協議を行う旨の合意」に当たるのかは、条文には書かれていません。
私は、その報酬の支払いについて協議することに双方が同意した、と読める文面が残っている必要があると読んでいます。
相手の「確認します」だけの返信がそれに当たるかは、条文からは分かりません。

承認:相手が支払う義務を認めれば、そこから数え直し

民法 第152条第1項は、「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。」と定めています。
報酬でいえば、発注者が支払う義務を認めた時点で、それまでに進んだ期間がリセットされ、そこから5年が新たに始まります。

法務省の説明資料は、承認の例として、債務者が「債務の存在を前提に100万円の一部弁済をした」場合を挙げています(貸したお金の例です)。
支払う義務があることを前提に一部を払ってもらえば承認に当たる、という例です。
支払いを待ってほしいという連絡など、ほかのどんなやり取りが承認に当たるかは、条文と今回読んだ資料には書かれていませんでした。

裁判の手続き:確定すれば時効期間は10年になる

民法 第147条第1項は、裁判上の請求、支払督促、民事訴訟法 第275条第1項の和解や民事調停法による調停、破産手続参加などがある場合、その手続きが終わるまで時効は完成しないとしています。
判決などで権利が確定しないまま終わった場合は、終わった時から6か月を経過するまでです。
確定判決や確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、手続きが終わった時から時効が新たに進み始めます(同条第2項)。

確定した権利の時効期間は、民法 第169条第1項で「十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする」とされています。
支払督促と少額訴訟の流れは、フリーランスの入金が遅いときにやることで、裁判所の説明をもとにまとめています。

フリーランス法と取適法には、時効の定めがない

フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)と取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律。
以前の下請法)は、報酬の支払期日や支払の遅延について定めています。
ただ、e-Gov 法令検索の現行版(2026年10月15日に取得)の全文を機械で検索すると、どちらも「時効」という語は0件でした。
今後施行される改正の版も、どちらも登録されていませんでした。

報酬を受け取る権利がいつ時効で消えるかは、どちらの法律の対象になる取引でも、民法の規定で考えることになります。
支払いが遅れた分に上乗せできる遅延損害金(取適法では第6条の遅延利息)は、報酬の支払いが遅れたら、フリーランスは遅延損害金をいくら請求できるのかに書きました。

年末に、未入金の報酬を支払期日の順に並べてみる

条文から逆算すると、未入金の報酬について見ておくことは、次の3つだと考えています。

  • いつが支払期日だったか。5年はそこから数えるのが原則です(第166条第1項)。請求書と契約の記録で確かめます
  • そのあと相手とどんなやり取りがあったか。一部の入金(承認・第152条)や、協議の合意(第151条)があれば、数え方が変わります。メールやメッセージを日付つきで残しておきます
  • 5年に近いものがあるか。近いものがあれば、先に協議の合意(第151条)か承認(第152条)を得られないかを考えることになります。催告をした場合は、猶予の6か月(第150条)の間にした協議の合意には猶予の効力がない(第151条第3項)ので、その間に承認(第152条)を得られなければ、裁判の手続き(支払督促など)へ進むかを決めることになります

反対の立場の時効もあります。
発注者が納品物の不具合を理由に直すよう求める権利にも、時効の考え方が出てきます。
そちらは納品したサイトの不具合は、いつまで直す義務があるのかに書きました。

まとめ:報酬の時効について条文で決まっていること

  • 債権は、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で、時効によって消滅する(民法 第166条第1項)。法務省の資料は、契約上の債権ではこの2つが基本的に同じ時点(支払期限到来時)になる例を挙げている。報酬は、原則として支払期日から5年と私は読んでいる
  • 2020年4月1日より前に生じた報酬(その前の契約に基づくものを含む)は、改正前の規定で数える(平成29年法律第44号 附則 第10条)
  • 相手が援用しなければ、裁判所は時効によって裁判をすることができない(第145条)
  • 催告は6か月の猶予で、猶予中の再度の催告では延びない(第150条)。書面かメールでの協議の合意は、合意から1年などのいずれか早い時まで猶予され、重ねても本来の完成時から通じて5年まで(第151条)。承認があればそこから新たに進行する(第152条)。裁判の手続きで権利が確定すれば、時効期間は10年になる(第147条・第169条)
  • フリーランス法と取適法の現行の全文に「時効」の語は無い。報酬の請求権の時効は民法で考える

支払いが遅れはじめたときの催促の順番は、フリーランスの入金が遅いときにやることにまとめています。

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この記事を書いた人

宮城県東松島市でひとりでWeb制作をやっています。Web業界10年、会社員時代に50を超えるプロジェクトを担当したのち独立。実際に使った道具と、迷って決めたことを書いています。

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