フリーランスのWeb制作者は労災保険に入れるのか。対象は「ITフリーランス」の特別加入、保険料は年3,831円から

傘の下のノートパソコンと保険料率3/1000の線図と、労災という見出し

会社員なら、仕事中や通勤中のけがは労災保険で補償されます。
フリーランスになると、その仕組みから外れます。
打ち合わせに向かう途中で転んでけがをしても、休んだ間の収入は自分でどうにかするしかありません。
フリーランスのWeb制作者でも労災保険に入れるのか、入れるならどの区分で、いくらかかるのかを、厚生労働省の資料で確かめました。

先に結論を書きます。

  • 入れます。労働者でない人のための「特別加入」という制度があり、Webサイトのデザインやコーディングは「ITフリーランス」の区分の対象です。厚生労働省の通達は、職種の例に「Webデザイナー」「Webディレクター」を挙げています
  • 2024年11月から始まった「特定フリーランス事業」の区分では、Web制作の作業は補償されません。ITフリーランスにあたる作業は、そちらの区分では仕事中と認められない、と通達に書かれています
  • 保険料は、自分で選ぶ給付基礎日額の365日分のおよそ1000分の3です。厚生労働省のリーフレットの表では、いちばん低い日額3,500円で年3,831円、1万円で年10,950円。加入は特別加入団体を通じて行い、団体の会費は別です

ふだんはフリーランスでWeb制作をしています(運営者情報)。
社会保険労務士ではないので、ここに書くのは法令と厚生労働省の資料で確かめたことだけです。
加入できるか、補償の対象になるかの個別の判断は、特別加入団体や労働基準監督署に確認してください。

目次

Webサイトの制作は「ITフリーランス」の特別加入の対象

労災保険は本来、雇われて働く人のための保険です。
ただ、労働者でない人のうち一定の事業や作業をする人は、特別に加入できます。
ITの仕事は、令和3年9月1日に施行された省令の改正で「ITフリーランス」として加入の対象に加わりました(労災保険法施行規則 第46条の18第8号)。
施行について厚生労働省が出した通達は、対象の作業をこう書いています。

情報処理システム(ネットワークシステム、データベースシステム及びエンベデッドシステムを含む。)の設計、開発(プロジェクト管理を含む。)、管理、監査、セキュリティ管理若しくは情報処理システムに係る業務の一体的な企画又はソフトウェア若しくはウェブページの設計、開発(プロジェクト管理を含む。)、管理、監査、セキュリティ管理、デザイン若しくはソフトウェア若しくはウェブページに係る業務の一体的な企画その他の情報処理に係る作業

厚生労働省 令和3年8月3日付け基発0803第1号 記の3(1)

「ウェブページの設計、開発」「デザイン」がはっきり入っています。
同じ通達の別表には、想定される職種として「Webデザイナー」(Webサイトのデザインやコーディングを担当する)と「Webディレクター」が並んでいます。
職種を限定するものではなく、業務内容などの実態をみて判断する、とも書かれています。

一方で、対象にならない仕事も書かれています。

ただし、別表2以外のPCを利用した一般的なデスクワーク業務を作業として行う場合やいわゆるIT講師と呼ばれる職種については、その作業様態が(1)とは異なるため、加入対象とはならない。

厚生労働省 令和3年8月3日付け基発0803第1号 記の3(2)

パソコンを使う仕事なら何でも、ではありません。
サイトの制作やデザイン、コーディングが仕事の中心なら、この区分にあたると考えられます。

「特定フリーランス事業」の区分では、Web制作の作業は補償されない

令和6年11月1日には、企業などから業務委託を受けているフリーランスが業種を問わず(すでに特別加入の区分がある事業や作業を除いて)入れる「特定フリーランス事業」という区分ができました。
「フリーランスならこちら」と思いがちですが、Web制作の作業には当てはまりません。
この区分の施行について厚生労働省が出した通達は、こう書いています。

労災則第46条の17第1号から第11号まで及び労災則第46条の18各号において規定する事業又は作業については、特定フリーランス事業としては業務遂行性が認められない。

厚生労働省 令和6年4月26日付け基発0426第2号 記の2(7)

ITフリーランスは、この「労災則第46条の18」の第8号です。
つまり、Web制作の作業中のけがに備えるには、ITフリーランスの特別加入団体を通じて入る必要があります。
特定フリーランス事業の団体から入っても、Web制作の作業中のけがは、仕事中のものと認められない、ということです。

Web制作とは別の仕事もしている場合(たとえば企業向けの研修の講師など)は、それぞれの区分で加入が要ります。

そのいずれも行う場合において、それぞれの事業又は作業で労災保険の適用を受けるためには、それぞれで特別加入をしていることが必要となる。

厚生労働省 令和6年4月26日付け基発0426第2号 記の2(7)

加入は団体を通じて、保険料は給付基礎日額の365日分のおよそ1000分の3

特別加入は、個人で直接申し込むのではなく、特別加入団体を通じて行います。
厚生労働省のITフリーランス向けのリーフレットは、手順をこう書いています。

ITフリーランスで働くご本人から、加入したい団体へ申し込み手続きを行ってください。

厚生労働省 ITフリーランスの特別加入リーフレット「加入手続きの流れ」

その後、団体が労働基準監督署に申請書を出し、都道府県労働局長が承認する流れです。

保険料は、加入するときに選ぶ「給付基礎日額」で決まります。
日額は3,500円から25,000円までの16段階で、休業したときの給付などの基礎になります。
ITフリーランス(労災保険法施行規則 第46条の18第8号の作業)の保険料率は、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則の別表第五で1000分の3です。
特定フリーランス事業も同じ率なので、そちらのリーフレットにある計算の例がそのまま当てはまります。

10,000×365×3/1000=10,950円

厚生労働省 特定フリーランス事業の特別加入リーフレット「給付基礎日額10,000円を選択した場合の年間保険料」
給付基礎日額年間の保険料(1000分の3)
3,500円(最低)3,831円
10,000円10,950円
25,000円(最高)27,375円
厚生労働省の特定フリーランス事業の特別加入リーフレットにある保険料の表の額。日額×365日×3/1000の計算とは、端数の扱いで数円未満ずれることがあります。特別加入団体の会費などは含みません

日額を高くするほど保険料も上がり、休業したときの給付も大きくなります。
団体の入会金や会費は、この保険料とは別にかかります。
確かめた厚生労働省の資料には、会費の額は書かれていませんでした。
申し込む前に、団体に確認してください。

在宅の作業は「私的行為でないことを十分に確認できた場合」に補償

補償されるのは、仕事中のけが(業務災害)と、通勤中のけが(通勤災害)です。
ITフリーランスの仕事中にあたるかは、通達がこう定めています。

(注1)「情報処理に係る作業」とは、ITフリーランスが行う作業のうち、依頼を受け契約を締結してから最終的な成果物の提供に至るまでに必要となる作業をいう。
ただし、自宅等で行う場合については、特に私的行為、恣意的行為ではないことを十分に確認できた場合に業務遂行性を認めるものとする。

厚生労働省 令和3年8月3日付け基発0803第1号 記の3(5)

Web制作者の多くは自宅で作業をしています。
自宅での作業も対象になりえますが、仕事の作業だったことを「十分に確認できた場合」とされているので、その時間に何の作業をしていたかを示せるようにしておくことが大事だと考えています。
作業の記録や、発注者とのやり取りが残っていると説明しやすいはずです。

作業そのものだけでなく、それに直接附帯する行為も対象です。
通達は例として「契約を受注するための営業行為、契約締結に付随する行為及びその事務処理等」を挙げています。
契約のための打ち合わせに向かう移動も、仕事中の例に挙がっています。

ITフリーランスの住居と就業の場所との間の往復の実状等から、通勤災害についても労災保険の対象とし、通勤災害の認定については、労働者の場合に準ずること。

厚生労働省 令和3年8月3日付け基発0803第1号 記の3(5)

なお、長時間のパソコン作業による目や腰の不調が、この区分でどう扱われるかを示した資料は見つかりませんでした。
通達は、仕事が原因かどうか(業務起因性)は「労働者の場合に準ずる」としています。

私の記録では、募集で労災に触れたものは0件

取り込んだ募集内容のファイル1,337件(2026年9月28日時点。
大半がクラウドソーシングの募集)を調べると、労災保険や特別加入に触れたものは0件でした。
「保険」という語が出てくるものは15件ありましたが、どれも保険代理店や保険診療など、発注者の事業の話でした。
少なくとも私が取り込んだ募集では、発注者から加入を求められた例は無く、入るかどうかは自分で決めることになると考えています。

私自身も、特別加入の手続きをした記録はありません。

入る前に確かめたい4つ

  • 区分:Web制作の作業中のけがに備えるなら、ITフリーランスの特別加入団体を選ぶ。特定フリーランス事業の区分では、Web制作の作業は仕事中と認められない
  • ほかの仕事:講師など別の仕事もしているなら、その区分でも加入が要る
  • 給付基礎日額:高くするほど保険料も給付も上がる。年間の保険料は、日額の365日分のおよそ1000分の3
  • 団体の費用と手続き:入会金や会費、申し込みの方法は団体ごとに確認する

在宅で作業をしているなら、いつ何の作業をしていたかが分かる記録も残しておくと、万一のときに説明しやすくなると考えています。

まとめ

  • フリーランスのWeb制作者も、労災保険に特別加入できる。Webサイトのデザインやコーディングは「ITフリーランス」の区分
  • 令和6年11月からの「特定フリーランス事業」の区分では、Web制作の作業は仕事中と認められない
  • 加入は特別加入団体を通じて。保険料は給付基礎日額の365日分のおよそ1000分の3(リーフレットの表で、日額3,500円は年3,831円、1万円は年10,950円)。団体の会費は別
  • 自宅での作業は、私的な行為でないことを十分に確認できた場合に補償の対象。通勤中のけがも対象

独立する前にそろえておきたいことはWeb制作で独立する前に準備することに、仕事で損害を出してしまったときの賠償の話は納品したサイトで発注者に損害が出たら、賠償はどこまで負うのかにまとめています。

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この記事を書いた人

宮城県東松島市でひとりでWeb制作をやっています。Web業界10年、会社員時代に50を超えるプロジェクトを担当したのち独立。実際に使った道具と、迷って決めたことを書いています。

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