実績が無いと案件が取れない。
でも、これまでに作ったサイトを勝手にポートフォリオに載せていいのかが分からない。
納品したあと、クライアントに聞くのも気が引ける。
受託で仕事をしていると、ここで手が止まることがあると思います。
先に結論を書きます。
- まず確かめるのは約束です。募集の条件、契約書の秘密保持や実績公開の条項、秘密保持契約(NDA)に公開の扱いが書いてあれば、それに従います
- 約束が無くても、著作権を発注者に譲っていれば、画面やデザインを載せるには原則として発注者の許諾が要ると考えられます。文化庁の資料は、イラストなどについて、著作権を譲ると許諾なしにはポートフォリオとして紹介できなくなると書いています。Webサイトを名指しした資料は見当たりませんでしたが、仕組みは同じだと考えています
- 迷ったら、納品後に聞くのがいちばん確実です。私が実績として載せてよいか頼んだ6件では、許可が4件、条件付きの許可が1件、断られたのが1件でした
ふだんはフリーランスでWeb制作をしています(運営者情報)。
弁護士ではないので、ここに書くのは条文と公的資料の該当箇所、自分の記録で確かめたことだけです。
個別の契約の解釈は、専門家に相談してください。
最初に見るのは、公開について何を約束したか
制作実績として公開してよいかは、法律より先に、発注者との約束で決まります。
見る場所は3つです。
- 募集の条件(「実績としての公開は不可」などの一文)
- 契約書の秘密保持の条項と、実績公開・権利の帰属の条項
- 別に交わした秘密保持契約(NDA)
募集に公開の可否が書いてあったのは、1,262件中19件
私が応募を検討するために取り込んだ募集内容のファイル1,262件のうち、その案件を実績として公開してよいかに触れていたのは19件でした(2026年9月17日時点)。
ほかに、第三者への公開を禁じてはいるものの、実績としての掲載を指すのか判断できない書き方が2件ありました。
19件の内訳は次のとおりです。
| 書かれ方 | 件数 |
|---|---|
| 公開不可 | 7 |
| 要相談・事前の確認や承諾が必要 | 6 |
| 条件付きで可(社名を出さない等) | 3 |
| 可 | 3 |
多くの募集は、公開について何も書いていません。
書いていないことは「公開してよい」という意味ではないので、ここだけで判断はできません。
数えたのは応募を検討した募集で、無作為に選んだものではありません。
秘密保持の語を含む募集はもっと多くありますが、大半はサービスが発注者の欄に自動で付ける表示でした。
発注者が応募や契約の時点で秘密保持への同意を求めていた募集は、少なくとも24件です。
ほかに、ランサーズの募集に付く「クライアント指定の秘密保持契約書への同意が必要」という条件が付いたものが19件ありました。
サービスの規約でも、秘密になるものが決まっていることがある
クラウドソーシングを通した取引では、サービスの利用規約にも秘密保持の定めがあります。
たとえばランサーズの利用規約第18条第1項は、非公開の設定をした依頼について、関連する情報をまとめて秘密としています。
会員は、会員間取引又はその成立過程において、取引の相手方たる会員から、秘密である旨を明示されて開示された秘密情報、タスク方式の依頼に関する一切の情報、非公開オプション又は完全非公開オプションが設定された依頼に関連する一切の情報、会員間取引遂行中に知り得た秘密情報及び取引の相手方たる会員が保持する個人情報を、全て秘密として保持し、会員間取引の目的以外には一切使用せず、第三者に一切開示、漏えいしないものとします。
ランサーズ利用規約 第18条第1項
同じ条の第2項には、すでに公知・公用の情報や、開示者が第三者への開示を文書で承諾した情報などを、会員が証明すれば秘密情報から除く定めもあります。
公開されているサイトがどこまで秘密に当たるかは、この条文だけでは決まりません。
それでも、非公開の依頼で作ったものは、実績として載せる前に特に慎重に確かめる必要があります。
ほかのサービスも規約の書き方がそれぞれ違うので、使っているサービスの規約を開いて確かめてください。
秘密保持の約束を破ることと、不正競争防止法の違反は別の話
「秘密保持契約に反すると不正競争防止法違反になる」と説明されることがありますが、両者は分けて考える必要があります。
経済産業省の営業秘密管理指針は、契約で決めた取扱いと、法律上の営業秘密に当たるかどうかの関係について、こう書いています。
また、当該情報の取扱いについて私人間の契約において別途の規律を設けた場合には、当該契約に基づく差止め等の措置を請求することが可能な場合もあるが、その際、法における営業秘密に該当するか否かは基本的には関係がないと考えられることに留意する必要がある。
経済産業省「営業秘密管理指針」
つまり、秘密保持の約束に反して公開すれば、法律上の営業秘密に当たるかどうかとは別に、契約に基づいて責任を問われることがあるということです。
約束の範囲に実績としての公開が含まれるなら、それだけで公開しない理由になります。
著作権を譲っていれば、実績として載せるにも原則として許諾が要る
秘密保持の約束が無い場合に効いてくるのが、著作権です。
作ったサイトの著作者は、制作した側
文化庁の著作権テキスト 令和8年度版は、仕事を頼まれて作った場合について、こう書いています。
なお、著作者とは「著作物を創作する者」のことであるため、著作物の創作を他人や他社に委託(発注)した場合は、料金を支払ったかどうか等にかかわりなく、実際に著作物を創作した「受注者側」が著作者となります。
文化庁「著作権テキスト 令和8年度版」
ただし著作権(財産権)は譲渡できます。
著作権法第61条第1項は「著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。」としています。
契約書で、支払いなどのときに著作権を発注者に移すと定めることがあり、私が用意した制作の契約書もそうでした。
譲ったあとは、自分の実績でも原則として許諾が要る
作ったサイトの画面やデザイン、プログラムが著作物に当たる場合、著作権を譲ったあとに自分のサイトやプロフィールに画面を載せる行為は、著作権法の複製(第21条)や公衆送信(第23条)に関わります。
これらは譲った相手が持つ権利なので、使うには原則として許諾が要ると考えられます。
この点を、文化庁の誰でもできる著作権契約マニュアルが、ポートフォリオという言葉を使って説明しています。
しかし、逆に著作者にとっては、著作権を譲渡してしまうと、その後は、譲渡先の許諾を得ない限り、著作者自身が様々な活動をする際に必要となっても(例えば、その著作物をインターネットで公開したり、ポートフォリオとして紹介したりするような場合でも)、その著作物を利用することができなくなりますし、類似の著作物を作ることが制約されてしまう(依頼者に譲渡した著作権を侵害する可能性がある)というデメリットも生じます。
文化庁「誰でもできる著作権契約マニュアル」
このマニュアルの該当箇所はイラストの作成の節で、Webサイトの制作を名指しした説明ではありません。
ただ、著作権を譲ったあとの利用に許諾が要るという仕組みは、Webサイトの画面やデザインでも同じだと考えています。
なお、著作者人格権は譲渡できません(第59条「著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。」)。
ただ、著作者人格権は公表や氏名の表示、改変について決める権利で、譲った著作権を使ってよいという意味にはなりません。
クラウドソーシングでは、規約で権利が移っていることがある
契約書を交わしていなくても、サービスの規約で著作権が移っている場合があります。
たとえばランサーズの利用規約は、プロジェクト方式の成果物についてこう定めています。
プロジェクトの成果物の譲渡可能な全ての権利(著作権法第27条及び第28条の権利を含みます。)は、個々の計画の成果物ごとに、支払確定時に、ランサーからクライアントに譲渡されるものとします。
ランサーズ利用規約 第20条
サービスによって規約の決め方は違うので、「契約書を交わしていないから権利は自分に残っている」とは限りません。
実績として公開できることを、契約書に書いておく
納品後に毎回聞かなくて済むように、契約の段階で決めておく方法もあります。
文化庁の契約マニュアルは、先ほどの説明に続けて「著作権を譲渡する契約を結ぶ場合には、このような著作者のデメリットに配慮して、これを調整する規定(例えば、著作者自身の利用を認める規定や、著作者が類似の著作物を創作することを認める規定等)を置くことも一つの方法として考えられます。」と書き、規定例を載せています(マニュアルの例では、甲が著作者、乙が依頼者です)。
規定例(著作者による利用を認める場合) 第○条(著作権の移転) 1 本著作物の著作権(著作権法第 27 条及び第 28 条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の支払いにより、乙に移転する。
文化庁「誰でもできる著作権契約マニュアル」
2 前項の規定にかかわらず、乙は、甲に対し、甲が本著作物を利用することを認める。
私が自分で用意して送ったWeb制作の契約書の1件には、秘密保持の条の中に、私が管理するサイトで制作実績として名称や画面を紹介できる、という例外が入っていました。
一方で、発注者が用意した契約書を受け取った1件(Web制作ではなく、SNSの運用代行の仕事)では、実績として公開するには事前に書面で承諾を得る、という定めでした。
どちらになるかは相手次第なので、契約書を受け取ったら、この条項を探すようにしています。
契約書でほかに見る場所は、業務委託契約書で最低限見る場所にまとめています。
公表を一方的に制限する約束は、問題になることがある
発注者が合理的に必要な範囲で秘密保持の義務を設けることは、それだけで問題になるものではありません。
公正取引委員会などのフリーランス取引のガイドラインも「発注事業者が、合理的に必要な範囲でこれらの義務を設定することは、直ちに独占禁止法上問題となるものではない。」としています。
ただし同じガイドラインは、取引上の地位が優越している発注者が、合理的に必要な範囲を超えて一方的に秘密保持義務などを課し、フリーランスが今後の取引への影響を懸念して受け入れざるを得ない場合を、優越的地位の濫用として問題になるとしています。
想定例には、次の一文があります。
フリーランスにとって発注事業者に役務等を提供したという事実が、新たな発注事業者を獲得する上で重要な情報となっているにもかかわらず、合理的に必要な範囲を超えて一方的に当該事実の公表を制限する秘密保持義務を設定すること。
フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和8年1月1日改定)
ここで挙がっているのは「取引をしたという事実」の公表の制限で、作った画面そのものを載せることには触れていません。
また、条件がいくつも付いています。
実績を載せられない約束がすべて問題になる、という意味ではない点に注意してください。
許可の頼み方と、実際に頼んだ6件の結果
約束も契約書の定めも無く、判断がつかないときは、発注者に聞くのがいちばん確実です。
私が制作実績として載せてよいかを発注者に頼んだ記録は6件あります。
結果は次のとおりでした。
- 許可:4件(うち1件は、報酬額まで書いてよいという許可)
- 条件付きの許可:1件(発注者が分からない形なら可)
- 断られた:1件(募集の時点で掲載不可と書かれていた案件で、納品後に社名を出さない形で相談したが、不可だった)
6件だけの記録なので、許可をもらいやすいかどうかの目安にはなりません。
断られた1件は、募集の条件に掲載不可と書かれていた案件でした。
最初から不可と書かれている案件は、あとから頼んでも覆らないことがある、と考えておくのがよさそうです。
頼むときに書くこと
許可をもらえた依頼の1件では、載せる場所(ポートフォリオと営業資料)、載せる中身(サイトのURL、画面のスクリーンショット、担当した範囲)を示し、条件付きの許可や不可も選べるように書いていました。
相手が判断しやすいように、次の3つははっきり書くのがよいと考えています。
- 載せる場所(自分のサイト、ポートフォリオ、営業資料など)
- 載せる中身(サイトのURL、画面のスクリーンショット、担当した範囲)
- 選べる形(そのまま載せてよい/社名などを伏せれば可/載せないでほしい)
あわせて、断っても今後の取引に影響しないことを添えておくと、相手が本音で答えやすくなると考えています。
文面にすると、たとえば次のようになります。
このたびはありがとうございました。
文面の例
一点ご相談です。
今回制作したサイトを、私の制作実績として自社サイトとポートフォリオに掲載させていただけないでしょうか。
掲載するのは、サイトのURL・画面のスクリーンショット・担当した範囲(デザインとコーディング)です。
「そのまま掲載してよい」「社名などを伏せれば掲載してよい」「掲載は控えてほしい」のいずれでも構いませんので、ご都合のよい形をお知らせください。
掲載をお控えいただく場合も、今後のお取引には何も影響ありません。
頼むのは、納品が終わって発注者の手が空いたタイミングがよいと考えています。
先ほどの1件では、納品後のお礼のやり取りにあわせて頼みました。
社名を伏せる形でも、画面やデザインを載せることに変わりはありません。
著作権を譲っている案件では、伏せる形でも許諾をもらってから載せてください。
まとめ
- 制作実績として公開してよいかは、まず募集の条件・契約書・NDA・サービスの規約で、公開について何を約束したかで決まる。約束に反して公開すれば、契約に基づいて責任を問われることがある
- 取り込んだ募集内容のファイル1,262件で、その案件を実績として公開してよいかに触れていたのは19件。書いていないことは「公開してよい」という意味ではない
- 著作権を発注者に譲っていれば、自分の実績として画面を載せるにも、原則として発注者の許諾が要ると考えられる。文化庁の契約マニュアルがイラストなどについて説明している仕組みを、Webサイトに当てはめた考え
- 契約書に、制作者が実績として利用することを認める定めを入れておく方法がある
- 迷ったら、載せる場所・中身・選べる形を示して頼む。私が頼んだ6件では、許可4件・条件付き1件・断られた1件だった
実績が少ないうちは、公開できる実績をどう増やすかが案件の取りやすさに直結します。
案件が取れないときに見た数字は、Web制作フリーランスが案件を取れない理由にまとめています。
