開業届の用紙を前にして、住所の欄で手が止まる人は多いと思います。
自宅で仕事をしているなら、書ける住所は自宅しかありません。
気になっているのは、たぶん書く手間ではなく「この住所は、誰に見えるのか」のほうです。
先に結論を書きます。
開業届は、税務署に出す書類です。
書いた住所が公表される仕組みは、私が確認した範囲では見当たりませんでした。
自宅を書いても、それだけで住所が世に出るわけではありません。
気をつけるのは、開業届とは別の5つの経路です。
名前で済むのはインボイス登録だけで、ほかの4つは住所まで関わります。
ただし4つのうち2つ(通信販売の表示とWhois)は、手を打てば住所を出さずに運用できます。
| 経路 | 外に出るもの(主なもの) |
|---|---|
| インボイス(適格請求書発行事業者)の登録 | 名前(氏名) |
| 通信販売をするときの、特定商取引法にもとづく表示 | 名前と住所 |
| 独自ドメインのWhois | 登録者名と、連絡先の住所・電話番号 |
| 商号の登記(個人でもできる。任意) | 名前と住所 |
| 法人化したときの登記 | 名称と住所 |
この5つは、公開される項目も、避けられるかどうかも違います。
順番に見ていきます。
ふだんはフリーランスでWeb制作をしています(運営者情報)。
税理士でも弁護士でもないので、ここに書くのは公開資料の該当箇所と、自分が実際にどうしたかだけです。
開業届には、住所を書く欄が2つある
国税庁が配っている「個人事業の開業・廃業等届出書」の様式を見ると、上部に住所に関する欄が2つ並んでいます。
| 欄 | 書くもの |
|---|---|
| 区分 | 納税地について、5.住所地/6.居所地/7.事業所等 のどれかの番号 |
| 納税地 | 上で選んだ区分の、郵便番号と住所 |
| 上記以外の住所地・事業所等 | 納税地以外に住所地や事業所がある場合の、その住所 |
つまり「納税地をどこにするか」を先に決めて、その住所を書く構造です。
自宅で仕事をしていて他に事業所がなければ、どちらの欄も自宅になります。
提出先と提出時期も確認しておきます。
国税庁の手続案内では、提出先は「納税地を所轄する税務署長」、提出時期は「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください。」とされています。
手続根拠は所得税法第229条です。
出典は国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」(2026年9月12日閲覧)と、同ページからダウンロードできる届出書の様式です。
納税地に自宅以外を選べる条件
納税地は自動的に自宅になるわけではありません。
国税庁のタックスアンサー「No.2029 確定申告書の提出先(納税地)」には、原則と特例が分けて書かれています。
納税地とは一般的には住所地になります。
国税庁 No.2029 確定申告書の提出先(納税地)
つまり、国内に住所がある人は、その住所地が納税地になります。
そのうえで、特例としてこう書かれています。
国内に住所または居所のいずれかがある人が、その住所または居所の他に事業所などがある場合には、住所地等に代えてその事業所などの所在地を納税地にすることができます。
同上
条件は「その住所または居所の他に事業所などがある場合」です。
事務所を借りている人は、そちらを納税地にできます。
自宅しかない状態で、住所だけを別の場所にできる制度ではありません。
あとから変えることもできます。
同じページによると、納税地の特例による変更は「変更後の納税地を記載した所得税または消費税の申告書を提出することにより変更することができます。」とされています。
年の途中で税務署からの文書の送付先も変えたい場合は、「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する申出書」を提出できます(このページの根拠法令等は「所法15、16、所基通2-1、消法21、通法21」と記載されています)。
先に事務所を用意してから開業届を出すか、あとで変更するか。
どちらでも道はあります。
開業届の1枚で人生が固定されるわけではないので、ここで止まる必要はないと思います。
名前や住所が外から見えるようになる、5つの経路
ここからが本題です。
開業届とは別に、自分の意思や事業の形によって、名前や住所が公開される場面があります。
1. インボイスの登録(公表されるのは氏名。住所は公表事項ではない)
適格請求書発行事業者になると、国税庁の公表サイトに情報が載ります。
公表される項目はよくある質問1-2に明記されています。
個人事業者:(1)氏名、(2)登録番号、(3)登録年月日、(4)登録取消(失効)年月日(住所は公表されません)
国税庁インボイス制度 適格請求書発行事業者公表サイト よくある質問 1-2
屋号と事務所の所在地は、自動では載りません。
主たる屋号(ペンネーム等)、及び主たる事務所の所在地については、登録する個人事業者自身から申出(希望)があった場合に限り公表されます。
同 よくある質問 1-10
同じFAQ(1-10)には「なお、「住所」は公表事項ではありません。」とも書かれています。
さらに、公表サイトのデータダウンロード機能について「ダウンロードできるデータには、個人事業者の氏名等の情報は含まれておりません。」とあります。
整理すると、インボイス登録で外に出るのは本名です。
住所は出ません。
屋号と事務所の所在地は、自分で申し出たときだけ出ます。
屋号で活動していて本名を出したくない場合、登録番号を取引先に伝えると、そこから公表サイトで本名を引かれることになります。
これは登録するかどうかの判断材料であって、住所の話とは別です。
混ざりやすいので分けて考えたほうがいいと思います。
2. 通信販売をするなら、特定商取引法の表示(ここがいちばん住所に近い)
自分で商品やサービスをネットで売る場合、特定商取引法にもとづく表示が必要になります。
表示事項のひとつが事業者の氏名(名称)、住所、電話番号です。
まず、この3つはいずれも条件つきで省略できます。
消費者庁の通信販売広告Q&Aの、氏名についてのQ15にはこう書かれています。
消費者からの請求によって、広告表示事項を記載した書面又は電子メール等を「遅滞なく」提供することを広告に表示し、かつ、実際に請求があった場合に「遅滞なく」提供できるような措置を講じている場合には、事業者の氏名(名称)の表示を省略することも可能です。
消費者庁 特定商取引法ガイド 通信販売広告Q&A Q15
ただし表示する場合の氏名には決まりがあります。
販売業者又は役務提供事業者の「氏名又は名称」については、個人事業者の場合は戸籍上の氏名又は商業登記簿に記載された商号を、法人にあっては登記簿上の名称を記載することを要し、通称や屋号、サイト名のみを表示することは認められません。
消費者庁 特定商取引法ガイド 通信販売広告Q&A Q16
住所と電話番号については、条件つきで省略できると書かれています。
「住所」については現に活動している住所、「電話番号」については確実に連絡が取れる番号を表示する必要がありますが、消費者からの請求によって、広告表示事項を記載した書面又は電子メール等を「遅滞なく」提供することを広告に表示し、かつ、実際に請求があった場合に「遅滞なく」提供できるような措置を講じている場合には、事業者の住所及び電話番号の表示を省略することも可能です。
同 Q17
ここでいう「省略」は消さずに済ませることではありません。
請求があれば遅滞なく伝える、という約束とセットです。
請求してきた相手には結局伝えることになります。
バーチャルオフィスについても回答があります。
Q18は、一定の措置が講じられている場合には、プラットフォーム事業者やバーチャルオフィスの住所・電話番号の表示でも法の要請を満たすと考えられる、としています。
条件はどちらの住所を出すかで変わります。
| 出す住所 | 満たすべき条件 |
|---|---|
| プラットフォーム事業者の住所 | その個人事業者の通信販売に係る取引の活動が、そのプラットフォーム上で行われること。あわせて下の2つ |
| バーチャルオフィスの住所 | 表示する住所・電話番号が連絡先としての機能を果たすことについて、運営事業者との間で合意がなされていること/運営事業者が、その個人事業者の現住所と本人名義の電話番号を把握していて、確実に連絡が取れる状態であること |
そのうえで、いずれかが不誠実で消費者から連絡が取れない事態が発生する場合には、表示義務を果たしたことにはならない、と続きます。
住所を隠すための箱ではなく、連絡が取れる状態を別の場所で作る仕組みだ、ということです。
私書箱については、はっきり否定されています。
私書箱を表示しても、このような場所を表示したことにはならないので、「住所」の表示をしたことにはなりません。
同 Q19
つまり、自宅を出したくない場合の選択肢は「請求があったら伝える形で省略する」か「連絡が取れる別の住所を用意する」のどちらかで、郵便の受け取り口だけ借りる方法は該当しません。
3. 独自ドメインのWhois(名前だけでなく、連絡先の住所と電話番号も出る)
ここはいちばん取り違えられやすいところです。
JPドメイン(汎用JP・都道府県型JP)を自分で登録すると、登録者の情報がWhoisで公開されます。
以下はJPドメインの話です。
「.com」などは仕組みが違うので、登録した会社の説明を確認してください。
JPドメインを管理しているJPRSは、登録者名を非表示にできる機能を提供しています。
本機能はJPドメイン名の登録者情報(登録者の氏名、組織名など)がWhoisを通じインターネット上で公開されることが、登録者の活動に対する制限や障害となる場合に、Whoisの検索結果から[登録者名]、[Registrant]の情報を非表示(別表示に置き換え)にできるものです。
JPRS Whois登録者情報非表示設定
対象は「汎用JPドメイン名・都道府県型JPドメイン名」で、申し込みは「ドメイン名の管理指定事業者を通じて行ってください。」とされています。
つまり自動では付いてきません。
注意すべき点もあります。
同じページには、非表示設定の利用の有無にかかわらず登録者名を含む登録情報が第三者に開示・提供される場合があること、非表示になっている登録者情報は書面による開示請求で知ることができることが書かれています。
見えなくする設定であって、誰からも辿れなくする設定ではありません。
そして、ここが本題です。
この設定で隠れるのは登録者名だけです。
Whoisにはもう1つ「公開連絡窓口」という欄があり、そちらは非公開にできません。
登録者のお名前、公開連絡窓口のお名前、電子メールアドレス、電話番号は必須の項目ですので、非公開とすることはできません。
JPRS よくある質問(JPドメイン名の活用について)
公開連絡窓口に何が載るかは、JPRSの公開・開示対象情報一覧に項目ごとの一覧があります。
汎用JPドメイン名の公開連絡窓口は、名前・電子メールアドレス・Web Page・郵便番号・住所・電話番号・FAX番号が、いずれも公開の対象です。
つまり自宅の住所と電話番号を自分で登録すると、それがWhoisに出ます。
登録者名の非表示設定を申し込んでも、こちらは残ります。
避けるには、窓口そのものを他人にしてもらいます。
同じFAQには「公開連絡窓口については、指定事業者などが公開連絡窓口を代行するサービスなどを提供していることもあります。」と書かれています。
ドメインを買う会社が出している「Whois情報公開代行」がこれにあたります。
申し込みの画面で見落とすと、自宅の住所が公開されたまま運用することになります。
ドメインを取るときの手続きについてはアフィリエイトブログのドメインの決め方にも書きました。
4. 商号の登記(個人でもできる。やると住所が登記される)
「登記は法人の話」と思われがちですが、個人事業主にも商号の登記があります。
商法第11条第2項は「商人は、その商号の登記をすることができる。」と定めています(法務局の商号登記申請書の記載例に条文が併載されています)。
義務ではなく、できる、という制度です。
問題は、登記したときに何が記録されるかです。
法務局が公開している記載例では、登記すべき事項は次のようになっています。
| 登記すべき事項 | 記載例の内容 |
|---|---|
| 商号 | 沼津商店 |
| 営業所 | 静岡県沼津市杉崎町6番20号 |
| 商号使用者の氏名及び住所 | 住所と氏名 |
| 営業の種類 | 中古車自動車の販売、不動産の売買 など |
出典は静岡地方法務局の商号登記申請書(本人申請の記載例・PDF)です(2026年9月12日閲覧)。
記載例では、住所と営業所が同じ番地になっています。
つまり自宅で仕事をしている人が商号を登記すると、自宅の住所が登記事項として記録されます。
屋号を守るための手続きが、住所を出す手続きにもなる、ということです。
なお、登記できるのは商法上の「商人」にあたる場合で、記載例の注記でも、営業の種類は商行為(商法第501条・502条・503条)などであることが必要だと説明されています。
もうひとつ、規模による除外があります。
商法第7条は、第11条第2項(商号の登記)などの規定を「小商人」には適用しないと定めています。
小商人とは、条文の言葉では「商人のうち、法務省令で定めるその営業のために使用する財産の価額が法務省令で定める金額を超えないもの」で、その金額は商法施行規則第3条第2項で「五十万円とする。」と決まっています。
営業用の財産が50万円を超えないなら、そもそも商号の登記はできません。
この「価額」は感覚で決めるものではありません。
同じ規則の第3条第1項が、「営業の用に供する財産につき最終の営業年度に係る貸借対照表(最終の営業年度がない場合にあっては、開業時における貸借対照表)に計上した額」と定めています。
帳簿に計上した額で測る、ということです。
パソコンと机だけで仕事をしている人は、ここに当たる可能性があります。
自分が登記できるのかどうかは、登記所で確認してください。
私は商号の登記をしていないので、申請したときの実務は書けません。
5. 法人化(住所が公開される側に回る)
法人にすると、本店の所在地が登記事項になり、国税庁の法人番号公表サイトでも公表されます。
個人の商号登記と違って、こちらは選べません。
基本3情報とは、1.商号又は名称、2.本店又は主たる事務所の所在地、3.法人番号のことを指します。
国税庁 法人番号公表サイト
同サイトは「法人番号の指定を受けた法人等の基本3情報を検索することができます。」と説明しています。
個人事業者はここに載りません。
自宅を本店にして法人化すると、検索すれば誰でも所在地を確認できる状態になります。
ここは開業届とは性質が違うので、法人化を考える段階で改めて決めることになります。
開業届も入れて、6つを並べる
ここまでを1つの表にします。
対象は個人事業者(法人化の行だけ法人)で、いずれも2026年9月12日時点の各公式資料の記載にもとづきます。
| 経路 | 外に出るもの | 自分で避けられるか |
|---|---|---|
| 開業届 | 公表される仕組みは確認できなかった | 該当なし |
| インボイス登録 | 氏名(住所は公表事項ではない) | 登録するかどうかの判断。屋号と事務所所在地は申出をしなければ公表されない |
| 通信販売の表示 | 氏名・住所・電話番号(氏名は戸籍上の氏名か登記された商号) | 3つとも、請求があれば遅滞なく提供する形にすれば省略できる。表示する場合、氏名に屋号だけは不可 |
| ドメインのWhois | 登録者名と、公開連絡窓口の住所・電話番号 | 登録者名は非表示設定(汎用JP・都道府県型JP)。住所と電話番号は、公開連絡窓口の代行サービスを使う。どちらも開示請求の対象にはなる |
| 商号の登記 | 商号・営業所・氏名・住所 | 登記するかどうかの判断(任意) |
| 法人化(登記) | 商号と本店所在地 | 本店をどこにするかの判断。公表される |
見比べると、住所が出るのは、通信販売の表示・Whois・商号の登記・法人化の4つです。
性質は違います。
2つの登記は記録されて誰でも取得でき、通信販売の表示とWhoisは手を打てば出さずに済みます。
開業届とインボイス登録は、そもそも住所が出る話ではありません。
私がどうしているか
このサイトでの開示はこうしています。
- 運営者情報には実名と、拠点は市まで書いている(番地は書いていない)
- 屋号は書いていない。事業の屋号とこのサイトを、こちらから能動的に結びつけないため
- このサイトでは商品やサービスを販売していないので、通信販売の表示は置いていない
ドメインについては、非表示設定と公開代行の両方を使っています。
このサイトのドメインをWhoisで引くと、登録者名の欄は「(登録者からの申請により非表示)」と表示され(JPRSの非表示設定の効果)、公開連絡窓口には登録した会社の代行サービスの名前と住所が出ます(公開代行の効果)。
自宅の住所が出ていないのは後者のおかげで、非表示設定だけでは住所は隠れません。
ただしこれで完全に分離できるとは考えていません。
前に書いたとおり、非表示にした登録者情報も書面による開示請求の対象です。
屋号を伏せる効果も「こちらから能動的に結びつけない」までで、調べれば辿れることは前提にしています。
隠しきることを目標にすると、どこかで無理が出ます。
どこまでなら出しても困らないかを先に決めておくほうが、迷いが少ないと感じています。
迷ったときに見る順番
最後に、判断の順番だけ整理しておきます。
- いま出そうとしているのは何かを分ける。開業届・インボイス登録・通信販売の表示・ドメイン登録は、それぞれ別の制度で、公開される項目も違う
- 取り消せるかどうかを見る。納税地はあとから変更できる。インボイスの屋号・事務所所在地の公表は自分の申出による。登記された所在地は、公開された事実が残る
- 自宅を出したくないなら、住所を消す方法ではなく「連絡が取れる別の住所」を先に用意する。私書箱は住所の表示にならない
- 本名と住所を分けて考える。名前で済むのはインボイス登録。住所まで関わるのは、通信販売の表示・Whois・商号の登記・法人化の4つで、前の2つは手を打てば出さずに済む
開業届そのものは、住所が公開される書類ではありませんでした。
独立の前後で決めることは他にもあるので、あわせてWeb制作で独立する前に準備することと、お金の入りかたの話としてフリーランスの入金が遅いときにやることも置いておきます。
この記事で引用した制度は、国税庁・消費者庁・JPRSが公開している資料で確認できます。
制度は改正されることがあるので、判断が必要な場面では最新版と、必要なら専門家の確認を取ってください。
