「支払いサイトは末締め翌月末払いでも大丈夫ですか」と聞かれて、その場で「大丈夫です」と答えたことがあります。
2026年4月、ある会社との顔合わせでした。
そのときの私は、それが長いのか普通なのかを判断する材料を持っていませんでした。
断る理由も思いつかなかったので、そのまま合意しました。
あとで法律を読んで分かったのは、あの支払いサイトが、法律の許す上限とほぼ同じ位置にあるということです。
きついと感じたなら、その感覚は正しかった。
ふだんはフリーランスでWeb制作をしています(運営者情報)。
法律の専門家ではないので、ここに書くのは公開資料の該当箇所と、自分の取引で実際に起きたことです。
自分のケースに当てはまるかどうかの最終判断は、後半に挙げる相談先を使ってください。
支払いサイト「末締め翌月末払い」は実際に何日空くのか
まず、日数を出します。
この支払いサイトは納品した日によって待ち時間が倍近く変わります。
| 納品した日 | 締め日 | 入金日 | 待つ日数 |
|---|---|---|---|
| 8月1日 | 8月31日 | 9月30日 | 約60日 |
| 8月15日 | 8月31日 | 9月30日 | 約46日 |
| 8月31日 | 8月31日 | 9月30日 | 約30日 |
同じ「末締め翌月末払い」でも、月初に納品すれば2か月待ち、月末に納品すれば1か月待ちです。
契約書には同じ一行しか書かれていないのに、実際の負担は倍違います。
だから支払いサイトを見るときは、条件の名前ではなく最悪のケースで何日空くかを数えます。
この支払いサイトの最悪ケースが60日です。
法律は60日を上限に決めている
2024年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、通称フリーランス法が施行されました。
公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が共同で出しているパンフレットに、支払期日についてこう書かれています。
発注事業者は、発注した給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、支払期日を定めて、その日までに報酬を支払わなければなりません。
公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法 ここからはじめる」10ページ(2026年8月13日閲覧)
原文はこちらのPDFで読めます。
この記事の引用はすべてここからで、ページ番号も添えます。
60日は「よくある条件」ではなく上限です。
しかも条文は「できる限り短い期間内で」と続きます。
60日いっぱい使うことが想定されているわけではありません。
そして、まさに「末締め翌月末払い」についての記述があります。
月単位の締切制度を採用する場合でも、給付を受領した日から60日以内に支払を行う必要があるため、月の初めに受領した分の支払が60日以内に行われるよう、毎月末日締切にする場合には、翌月末日までに支払期日を設定する必要があります。
同パンフレット 11ページ
また、「受領した後60日以内」を「受領した後2か月以内」として運用するため、31日まである月も、30日までしかない月も、同じく1か月として考えます。
読み替えるとこうなります。
末締め翌月末払いは適法。
ただし、それより後ろには設定できない。
31日ある月でも「1か月」として数えるので、日数のズレは問題になりません。
つまり、あの日に私が合意した支払いサイトは、制度が許している端でした。
きついかどうかで言えば、きつい側の端です。
ただし、この60日ルールが効かない相手がいる
ここを先に確認しないと、以降の話が自分に当てはまりません。
フリーランス法の義務は、すべての発注者が負うわけではないからです。
そして、受け手側にも条件があります。
発注する側の条件
義務を負うのは「特定業務委託事業者」で、パンフレット4ページに次のように定義されています。
- 個人であって、従業員を使用するもの
- 法人であって、二以上の役員がいる、または従業員を使用するもの
裏返すと、従業員を雇っていない個人事業主から仕事を受けた場合、60日ルールの後ろ盾はありません。
役員が代表者ひとりで従業員もいない法人も同じです。
ただし、後ろ盾が無いことと報酬を請求できないことは別です。
契約にもとづく請求権は残ります。
無くなるのは「60日以内に支払期日を定めなければならない」という法律上の義務のほうで、支払われないときに取れる手は入金が遅いときにやることのほうにまとめています。
受ける側(自分)の条件
見落としがちですが、守られる側にも定義があります。
「特定受託事業者」は同じ4ページで、次のように定義されています。
- 個人であって、従業員を使用しないもの
- 法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの
つまり自分が人を雇った時点で、この法律の保護からは外れます。
外注は使うが雇用はしていない、という形なら該当します。
なお、会社員が副業として事業者から業務委託を受けている場合は「特定受託事業者」に該当する、とパンフレットの注記にあります(4ページ)。
「従業員を使用する」の意味
この言葉の定義も同じページにあります。
従業員を使用とは、1週間の所定労働時間が 20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇用することです。
同パンフレット 4ページ 注記
労働者派遣の派遣先として、上記基準に該当する派遣労働者を受け入れる場合も該当します。
なお、事業に同居親族のみを使用している場合は該当しません。
週20時間という線があるので、短時間のアルバイトを1人だけ使っている相手は該当しないことがあります。
逆に、人を雇っていなくても派遣を受け入れていれば該当します。
支払いサイトを提示してきた相手が該当するかどうかを、契約前に問いただすのは現実的ではありません。
ただ、相手が法人か個人か、求人を出しているか、会社概要に従業員数の記載があるかで、おおよその見当はつきます。
私自身、クラウドソーシング経由の相手について確認したことはありませんでした。
ここから先の話は、相手が特定業務委託事業者にあたる場合のものとして読んでください。
「60日以内に支払います」は、支払期日を決めたことにならない
これは知らないと見落とします。
パンフレット11ページに、支払期日の書き方について正しい例と違反例が並べて書かれています。
| 判定 | 書き方 |
|---|---|
| 認められる | 「●月●日支払」「毎月●日締切、翌月●日支払」 |
| 認められない(違反例) | 「●月●日まで」「●●日以内」 |
出典は同パンフレット11ページです。
理由は、いつが支払日なのかを特定できないからと説明されています。
「納品後60日以内にお支払いします」と書かれた契約書は、一見すると期限が明記されているように読めますが、パンフレットの分類では違反例のほうに入ります。
定めがなかった場合と、60日を超えて定めた場合の扱いも決まっています(10ページ)。
- 支払期日を定めなかったとき → 給付を実際に受領した日が支払期日になる
- 受領日から起算して60日を超えて定めたとき → 60日を経過する日が支払期日になる
長い支払いサイトを書いても、法律の側で60日に引き戻される、ということです。
契約書を読むときは、日数より先に「支払日が具体的な日付として特定されているか」を見たほうが早い。
例外もあります。
相手が元請けから受けた仕事を再委託している場合は、必要事項を明示していれば、元委託の支払期日から起算して30日以内という定め方が認められます(12ページ)。
このとき相手が明示しなければならないのは次の3つです。
- 再委託である旨
- 元委託者の名称(識別できるもの)
- 元委託業務の対価の支払期日
制作会社から回ってくる仕事には、この形が含まれます。
「元請けの入金待ちなので」と言われたことがあるなら、この特例にあたる可能性があります。
ただし特例を使うには上の3点の明示が要る、というのがパンフレットの書き方です。
きついのは日数ではなく、立て替えている期間だった
2026年6月、別の案件で契約書をレビューしたときに、着手金なし・納品後翌月末払いという条件がありました。
契約書自体はこちらに不利な内容ではなかったのですが、この一点だけは、回収のリスクを全部こちらが負う形になります。
ここで気づいたのは、支払いサイトの「きつさ」は入金を待つ日数だけでは決まらない、ということです。
制作している1〜2か月はまだ請求もしていません。
納品してから締め日までは請求できる状態ですが、まだ入金は来ません。
締め日から入金日までがいわゆる支払いサイトです。
着手金がない場合、この全部が自腹の期間になります。
制作に1か月かけて、月初に納品して、末締め翌月末払いなら、最初に手を動かした日から入金まで3か月かかります。
支払いサイト60日という言葉が指しているのは、このうち後ろの2か月分だけです。
生活費が足りなくなるのは、この3か月のどこかです。
60日という数字だけを見ていると、そこを見誤ります。
支払いサイトの短縮は通りにくい。着手金のほうが通る
「短縮してもらえないか」と言いたくなりますが、私は支払いサイトの短縮そのものは通りにくいと考えています。
締め日と振込日は経理の運用なので、こちら1社のために動かす前提になっていないからです。
担当者の一存では決められない場合もあります。
それでも短縮を持ちかけるなら、条件を変えてもらうのではなく納品日をこちらでずらすほうが現実的です。
最初の表のとおり、末締め翌月末払いは月初納品で約60日、月末納品で約30日です。
締め日の直前に納品を寄せるだけで、待ち時間は半分になります。
相手に頼まなくていいぶん、これがいちばん確実です。
相手に頼む場合は、着手金のほうが通ります。
着手金は案件単位の条件なので、担当者の裁量で決まることがあるからです。
先ほどの契約書レビューでも、私は着手金の交渉を提案しました。
| 頼むこと | 相手にとって何の話か | 通りやすさ |
|---|---|---|
| 支払いサイトの短縮 | 経理フローの変更 | 難しい |
| 納品日を締め日の直前に寄せる | 頼む必要がない(自分で調整) | 自分で決められる |
| 着手金・中間金 | 案件ごとの条件 | 相談しやすい |
| 支払日を具体的な日付で明記 | 法律上の義務(相手が対象事業者の場合) | 断る理由がない |
いちばん下は交渉ですらありません。
相手が特定業務委託事業者にあたるなら、支払期日を特定して明示することはもともと義務だからです。
「外で契約すれば早く払える」という話には乗らない
2026年6月、クラウドソーシング経由で問い合わせをくれた相手から、プラットフォームの外で業務委託契約を結び、当月末締め翌月末の現金振込にしたいと希望されたことがあります。
私は規約上できないと判断して断りました。
各社の規約は改定されるので、ここは自分が使っているサービスの最新の規約で確認してください。
ただ、規約の話を抜きにしても、条件そのものがこちらの不利になる取引でした。
クラウドソーシングは仮払い方式です。
作業を始める前に、発注者がプラットフォームへお金を預けます。
手数料は引かれますが、預けられた分については、入金までの流れがプラットフォーム側で完結します。
外に出るというのは、その仕組みを手放して、支払いサイト最大2か月・回収リスクは自分持ちの条件に移るということです。
プラットフォームの手数料を「取られている」と感じている人は多いと思います。
私もそうです。
ただ、あの手数料には入金の確実さと入金の早さが含まれているということは、外に出る話が来て初めて意識しました。
結局、支払いサイト60日はきついのか
きついです。
ただし支払いサイト60日がきついのは、それが法律の許す上限だからであって、相手が特別に厳しい条件を出しているわけではありません。
ここを混同すると、通る交渉も通らなくなります。
条件を出されたときに見るのは、この4つでいいと思います。
- 支払日が具体的な日付で特定されているか(「◯日以内」はパンフレットの違反例)
- 最悪のケースで何日空くか(月初納品を前提に数える)
- 着手金があるか(無ければ制作期間も自腹)
- 相手が従業員を使っているか(60日ルールが効くかどうかが変わる)
私はこれを知らないまま「大丈夫です」と答えていました。
次に同じことを聞かれたら、条件は受けるにしても、着手金と納品日の話はその場でします。
入金までの期間を自分の手元資金で埋められない場合の選択肢は、入金が遅いときにやることのほうに、契約前・契約後それぞれまとめています。
この記事の出典と、判断に迷うときの相談先
引用と数値はすべて、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法 ここからはじめる」(PDF・2026年8月13日閲覧)から取っています。
該当ページは本文中に添えました。
制度は改正されることがあるので、契約の場面では最新版を確認してください。
また、勧告に従わない場合は命令・公表があり、命令違反には50万円以下の罰金がある、と同パンフレット28ページに書かれています。
ここまで書いてきましたが、私は法律の専門家ではありません。
自分の契約が違反にあたるかどうかの判断は、この記事ではできません。
判断が必要な段階になったら、弁護士に相談できる窓口としてフリーランス・トラブル110番があります(同パンフレット28ページ)。
厚生労働省の委託事業として第二東京弁護士会が運営していて、無料で電話・メール相談ができ、和解のあっせんも行っています。
支払いサイトと同じく「言われた条件をそのまま受けてしまいがちなもの」として、フリーランスエージェントの手数料相場についても、自分が1年参画して分からなかったことを書いています。
