制作の途中でキャンセルされたら、報酬はどうなるのか。民法とフリーランス法で決まること

工程の帯を中止の位置で区切り、できた分を示した線図

サイトを半分ほど作ったところで、「社内の事情でこの案件は無しになりました」と言われた。
作りかけの分はどうなるのか、請求していいのか、言い出しにくい。
直接契約で受けていると、こういう連絡が来ることがあります。

先に結論を書きます。

  • 発注者はいつでも契約を解除できます。ただし、そのときは損害を賠償する決まりです(民法第641条)
  • できた分の報酬と、解除による損害賠償は別の話です。できた分の報酬は、分けられる部分の仕事で発注者が利益を受けるときに請求できます(第634条)
  • 従業員のいる(法人なら役員が2人以上の場合を含む)発注者との、6か月以上続く契約なら、解除の30日前までに予告する義務があります(フリーランス法第16条)。ただし、予告がなかったからといって解除が無効になるわけではありません
  • 中止でこちらの費用が無駄になったのに発注者がその費用を負担しない場合、フリーランス法や取適法で問題になることがあります

ふだんはフリーランスでWeb制作をしています(運営者情報)。
弁護士ではないので、ここに書くのは条文と公的資料の該当箇所だけです。
私自身は、契約したあとに発注者の都合で止められた経験がありません。
案件の記録を確認しましたが1件もなかったので、「こう交渉すれば通る」という話は書けません。
個別の判断は、後で紹介する無料の相談窓口を使ってください。

目次

報酬と損害賠償は、別々に考える

途中でキャンセルされたときに請求しうるものは、2つに分かれます。
ここまでに作った分の報酬と、解除されたことによる損害賠償です。
根拠になる条文が違うので、分けて考えると整理しやすくなります。

できた分の報酬(民法第634条)

Webサイトを完成させて納品する契約は、民法でいう請負にあたると考えられます。
請負は「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約です(第632条)。
完成させて初めて報酬、というのが原則ですが、途中で終わった場合の定めがあります。

第六百三十四条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。
この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。

民法 第634条

続けて、あてはまる場合が2つ挙げられています。
「一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。」「二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。」です。
途中でキャンセルされた場合は、2つ目にあたります。

ポイントは「可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるとき」という条件です。
分けて渡せる形になっていて、その部分が発注者の役に立つ状態である必要があります。
デザインだけ仕上がっている、トップページだけ実装が終わっている、といった形で渡せるなら、そこは完成したものとみなして割合で請求できる、という組み立てだと考えています。
逆に、手元にあるのが誰にも使えない中途半端な状態なら、この条文では請求しにくいことになります。
なお、Webサイトの制作を名指しでこの条文に当てはめた国の資料は見当たりませんでしたが、厚生労働省の委託事業であるフリーランス・トラブル110番の相談事例には、システムエンジニアの仕事について同じ説明があります。

なお、請負契約の場合、仕事の完成前に契約が解除されたときは、フリーランスがすでにした仕事の結果のうち、可分な部分の給付によって発注者が利益を受けていたときは、フリーランスは、発注者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができます(民法第634条)。

フリーランス・トラブル110番 相談事例

この事例は、受注した側から契約を解除したという相談で、発注者都合のキャンセルとは前提が違います。
ただ、途中で解除されたときの報酬の考え方として、同じ条文が挙げられています。

保守や運用のように、完成ではなく作業そのものを続ける契約(委任・準委任)は、別の条文です。
時間や作業量で報酬が決まる形なら、第648条第3項が「既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。」と定めていて、中途で終わった場合が挙げられています。
成果に対して報酬を払う形なら、第648条の2第2項が第634条を準用します。

解除による損害賠償(民法第641条)

発注者から解除できるかどうかは、条文にはっきり書かれています。

第六百四十一条 請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。

民法 第641条

理由は要りません。
完成前ならいつでも解除できます。
その代わりに損害を賠償するのが条件になっています。
委任・準委任の契約でも、どちらからでもいつでも解除できますが(第651条第1項)、相手に不利な時期に解除した場合などには損害賠償の義務があります(同条第2項)。
ただし「やむを得ない事由があったときは、この限りでない。」という但し書きが付いています。

では、その損害はいくらなのか。
ここを説明した国の資料は、探した範囲では見つかりませんでした。
フリーランス法の考え方・Q&A・パンフレット、取適法のテキスト、経済産業省のガイドラインのいずれにも、解除に伴う損害賠償の範囲の記述はありません。
いちばん近いのが、厚生労働省の委託事業であるフリーランス・トラブル110番の相談事例で、請負なら第641条、委任なら第651条第2項を根拠に挙げたうえで、こう書かれています。

これらの損害賠償を請求するには、この契約解除により具体的に発生した損害が立証できるかがポイントとなります。

フリーランス・トラブル110番 相談事例

つまり「解除されたから一律にいくら」ではなく、実際に何がいくら無駄になったかを示せるかで決まる、ということです。
作業した時間の記録、外注や素材の購入費、その期間に断った別の仕事の記録などが、手元にあるかどうかで変わってきます。

6か月以上の契約なら、30日前の予告が要る

フリーランス法には、契約の解除に関する条文があります。

第十六条 特定業務委託事業者は、継続的業務委託に係る契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。
次項において同じ。)をしようとする場合には、当該契約の相手方である特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、少なくとも三十日前までに、その予告をしなければならない。
ただし、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。

フリーランス法 第16条第1項

予告のあとに理由の開示を求めることもできます(同条第2項)。
当てはまるかどうかは、次の2つで決まります。

  • 発注者が「特定業務委託事業者」か。第2条第6項で、「個人であって、従業員を使用するもの」または「法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの」とされています。従業員のいない個人事業主やひとり社長の法人からの発注では、この義務はかかりません
  • 継続的業務委託にあたるか。この期間は第13条第1項と施行令第3条で6か月と定められています。更新で通算する場合の条件は「考え方」にあり、当事者が同じで内容にある程度の同一性があること、前の契約の終了から次の契約までが1か月未満であることが必要です

つまり、期間が6か月に満たない単発のサイト制作は、この予告義務の対象になりません。
月々の保守や運用を半年以上続けている場合や、1本の制作でも契約の期間が6か月以上ある場合が対象です。

30日の数え方は、Q&Aの問107に「予告日(当日)から解除日の前日までの期間が30日間確保されている必要がありますので、例えば、8月31日に解除する場合には8月1日までに予告が必要です。」とあります。

例外も定められています。
厚生労働省令第4条が5つの場合を挙げていて、災害などやむを得ない事由、元の委託が解除されて再委託が不要になった場合、契約期間が30日以下の個別契約、受注側に責任がある場合、基本契約はあるが受注側の事情で相当な期間その発注がない場合です。
受注側に責任がある場合について、「考え方」は「本法第16条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものであり、したがって特定業務委託事業者に特定受託事業者に対し30日前に解除の予告をさせることが当該事由と比較して均衡を失するようなものに限る。」と、かなり狭く絞っています。

契約書に「予告なく解除できる」と書いてあった場合はどうなるか。
「考え方」にはこうあります。

また、特定業務委託事業者と特定受託事業者の間で、あらかじめ一定の事由がある場合に事前予告なく契約を解除できると定めていた場合においても、直ちに同条の事前予告が不要となるものではなく、後記⑷の例外事由に該当する場合を除き、あらかじめ定めた事由に該当するとして特定業務委託事業者からの一方的な意思表示に基づき契約を解除する場合は「契約の解除」に該当する。

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方

予告がなくても、解除そのものは無効にならない

ここは誤解しやすいところです。
Q&Aの問108は、予告義務に違反した場合について次のように答えています。

答 本法第16条第1項は、6ヶ月以上の期間行う業務委託に係る契約を解除する場合等の予告義務を定めているものであるため、解除等の効力は本法に基づいて判断されるものではありません。
例えば契約の解除等の効力や解除に伴う損害賠償請求等については、民事上の争いとして司法による判断等により解決が図られるものです。

フリーランス法Q&A 問108

予告がなかったことは、行政に申し出る材料にはなります(第17条第1項)。
申し出たことを理由に取引を減らすなどの不利益な取扱いは禁じられています。
ただし報酬や損害賠償そのものは、民法の話として別に決まります。
なお、罰金があるのは予告義務違反そのものではなく、行政の命令に従わなかったときで、第24条で50万円以下と定められています。

費用を負担しない中止は、法律上問題になることがある

予告義務とは別に、フリーランス法の禁止行為の条文(第5条)があります。
こちらの対象は1か月以上の業務委託で、第16条の6か月とは線引きが違います。

途中でのキャンセルがこの条文に当たるのかは、「考え方」に書かれています。
受領拒否(第5条第1項第1号)の説明はこうです。

「受領を拒む」とは、特定受託事業者の給付の全部又は一部を納期に受け取らないことをいい、次の行為も原則として含まれる。

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方

続く①に「業務委託を取り消すこと(契約の解除)により、特定受託事業者の給付の全部又は一部を業務委託時に定められた納期に受け取らないこと。」とあります。
また、給付内容の変更(第5条第2項第2号)の説明にも「業務委託を取り消すこと(契約の解除)も給付内容の変更に該当する。」と書かれています。

分かれ目は、発注者が費用を負担したかどうかです。

給付内容の変更ややり直しによって、特定受託事業者がそれまでに行った作業が無駄になり、又は特定受託事業者にとって当初委託された内容にはない追加的な作業が必要となった場合に、特定業務委託事業者がその費用を負担しないことは、特定受託事業者の利益を不当に害することとなるものである。

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方

Q&Aの問74は、受領拒否の禁止が適用されない役務の提供委託について聞かれたもので、一方的に取り消して「特定受託事業者が要した費用を特定業務委託事業者が負担しないことにより特定受託事業者の利益を不当に害したといえる場合には、不当な給付内容の変更として、本法上問題となります。」としています。

発注者の規模によっては、2026年1月1日に施行された取適法(旧・下請法)の対象にもなります。
どの発注者が対象かは資本金や従業員数で細かく分かれるので、ここでは深追いしません。
制作の現場に近い記述として、経済産業省の情報サービス・ソフトウェア産業のガイドラインには、こう書かれています。

ユーザーからのキャンセルを理由として、発注の取り消し(契約解除)を行い、給付の目的物を受領しない場合は受領拒否に該当する。

情報サービス・ソフトウェア産業における中小受託適正取引等の推進のためのガイドライン

制作会社から仕事を受けている場合、その制作会社が取適法の対象になる規模であれば、「クライアントに切られたからこの話は無し」という理由での取消しは、それ自体が問題になりうる、ということです。

途中解約の扱いは、契約書に書いてあるかどうかで決まる

ここまでは法律の原則です。
ただ、実務で先に効いてくるのは契約書の定めのほうです。
「一定以上進んでいれば全額」「完了した工程は全額、進行中の工程は稼働に見合う額」と書いてあれば、第634条の「可分」「利益を受ける」を争う前に、その定めに沿って話が進むと考えています。

では、その定めは募集の段階で分かるのか。
私が応募を検討するために取り込んだ募集内容のファイル1,253件を調べたところ、発注者の都合で中止した場合の扱いに触れていたものは0件でした(2026年9月16日時点)。
「中途解約」「途中解約」「解除」「キャンセル」「出来高」「着手金」などの語で本文を検索し、ヒットした行を1行ずつ読んで判断しています。
ヒットした行の中身は、予約のキャンセル機能を作る案件のような制作物の話か、取り込み元のサービスが自動で付けた定型文でした。
数え方の限界として、これらの語を使わずに中止の扱いを書いている募集があれば、この数え方では拾えません。

つまり中止したときの扱いが決まるのは、募集ではなく契約の段階ということになります。
私の場合は、自分で用意して送った契約書に「一定以上進んでいれば途中解約でも報酬は全額」という定めが入っていました。
発注者が用意した基本契約書のときは、発注者の都合で途中終了したときの精算方法について相談し、「終わった工程は全額、進めている途中の工程は稼働に見合う額」という形で反映してもらえたことがあります。
どちらも、実際に止まった場面を経験したわけではありません。

契約書のどこを見るかは、業務委託契約書で最低限見る場所にまとめています。

止まったときにやること

1. 契約書と、やり取りの記録を確認する

まず契約書に、途中で終わったときの報酬の定めがあるかを見ます。
次に、その連絡が一方的な解除なのか、こちらも同意した合意解約なのかを確かめます。
「考え方」は、合意による場合は第16条の「契約の解除」に当たらないとしたうえで、「当該意思表示があったか否かは慎重に判断する必要がある」としています。
その場で「分かりました」と返す前に、条件を決めてからにしたほうが安全だと考えています。

2. できた分と、かかった費用を整理する

渡せる形になっているものは何か(デザイン、実装済みのページ、原稿)、外注費や素材の購入費はいくらか、作業した時間はどれくらいか。
損害賠償が具体的に発生した損害を立証できるかで決まる以上、ここが手元にあるかどうかで話の進み方が変わります。

3. 請求する内容を分けて伝える

報酬と損害賠償は根拠が違うので、分けて書いたほうが相手にも伝わります。
たとえば次のような形です。

本件の中止につきまして承知しました。
つきましては、これまでに納品できる状態になっている◯◯(デザイン一式)について、民法第634条に基づき、出来高分の報酬をご相談させてください。
あわせて、本件のために支払った素材費◯円の実費についても、ご負担をお願いできればと考えております。

文面の例

4. 折り合わないときは相談窓口へ

フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省が第二東京弁護士会に委託して運営している窓口です。
「料金は一切かかりません。」とあり、「まずは電話やメールで気軽に相談できます。
相談は匿名でもOKです。」
とも書かれています。
電話は0120-532-110(受付時間9:30〜16:30、土日祝日を除く)です。

和解あっせんという手続きもあり、「本事業では和解あっせん手続についても費用は無料です。」とされています。
一方で、「契約書の作成、請求書面の作成」は対象外と明記されているので、書類を作ってもらう窓口ではありません。
相談担当の弁護士が代理人になったり、相手方と直接交渉したりすることもできない、とされています。

まとめ

  • 発注者は完成前ならいつでも解除できる。その代わり損害を賠償する(民法第641条)
  • できた分の報酬は、分けられる部分で発注者が利益を受けるときに、割合で請求できる(第634条)。損害賠償とは別の話
  • 損害賠償の範囲を説明した国の資料は見つからなかった。決め手は、具体的に発生した損害を立証できるか
  • 従業員のいる(法人なら役員が2人以上の場合を含む)発注者との6か月以上の契約なら、30日前までに予告する義務がある(フリーランス法第16条)。ただし予告がなくても解除は無効にならず、報酬や賠償は民法の話として別に決まる
  • 1か月以上の業務委託では、費用を負担しないままの取消しが、受領拒否や不当な給付内容の変更として問題になることがある
  • 募集内容のファイル1,253件で、中止したときの扱いに触れていたものは0件。決まるのは契約の段階

止まらずに進んだのに入金だけが遅れている、という場合はまた別の動き方になります。
フリーランスの入金が遅いときにやることにまとめています。

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この記事を書いた人

宮城県東松島市でひとりでWeb制作をやっています。Web業界10年、会社員時代に50を超えるプロジェクトを担当したのち独立。実際に使った道具と、迷って決めたことを書いています。

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