インボイス未登録のフリーランスは、仕事を受けにくくなるのか

製図風の図解。左に「インボイス」の見出し、右は段階的に下がる階段状の線で、最初の下がり幅が銅色の寸法で80→70%と示されている

取引先から「インボイスの登録はされていますか」と聞かれる。
見積もりに登録番号を書く欄がある。
免税事業者のまま仕事をしていると、どこかでこの問いに当たります。

気になるのは、登録していないと仕事が減るのか、値下げを求められるのか、ということだと思います。

先に結論を書きます。

  • 取引先が一般課税で消費税を計算している場合、その負担は2026年10月1日から増えます。未登録の相手への支払いで控除できる消費税の割合が、80%から70%に下がるからです。取引先が消費者・免税事業者や、簡易課税を使っている事業者なら、影響は生じないと考えられます(2割特例も同様です。2割特例は2026年9月30日を含む課税期間までですが、そのあと3割特例に移る個人の取引先も、影響は出にくいと考えられます)
  • それを理由に取引条件の見直しを求められること自体は、直ちに問題となるものではありません。ただし一方的な値下げや、応じないと取引を打ち切るという通告は、やり方によっては独占禁止法などの問題になりえます
  • 私が取り込んだ募集では、未登録を不可としていたものは0件でした(後半に詳しく)

タイトルの問いに答えると、募集文の段階で未登録を不可とするものは見当たらず、インボイスに触れた募集自体が1,186件中4件でした。
ただし選考でどう扱われたかは、この記録からは分かりません。
影響が出やすいのは、一般課税の取引先と継続して取引していて、見直しの話が持ち上がる場面だと考えています。

ふだんはフリーランスでWeb制作をしています(運営者情報)。
税理士ではないので、ここに書くのは公開資料の該当箇所と、自分が取り込んだ募集の中身だけです。
判断が必要な場面では税務署か税理士に確認してください。

目次

取引先に何が起きるのか

インボイス制度では、取引先(課税事業者)が消費税を納めるとき、仕入れにかかった消費税を差し引けます(仕入税額控除)。
ただし、差し引けるのは原則としてインボイスを受け取った支払いだけです。

そもそも影響しない取引先がある

この話が当てはまるのは、取引先の一部です。
後で詳しく引く「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」のQ2には、免税事業者のままでも影響が生じないと考えられる場合が挙がっています。

免税事業者であり続けたとしても免税事業者の売上先が以下のどちらかに当てはまる場合は、取引への影響は生じないと考えられます。

同Q&A Q2

挙げられているのは、「売上先が、消費者又は免税事業者である場合」「売上先の事業者が、簡易課税制度を適用している場合」で、後者には「いわゆる2割特例」を適用している場合も同様と注記があります。

ただし2割特例には期限があります。
国税庁インボイスQ&A「問114」によると、対象は「令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」です。
その後について、「令和8年度税制改正特集」の図の代替テキスト(画像に付けられた説明文)では、令和9年から個人事業者は3割特例に移れる一方、「法人は3割特例適用不可」とされています。
3割特例も「売上税額が分かれば計算可能でインボイス保存不要」と説明されているので、3割特例に移る個人の取引先では、影響は出にくいと考えられます。
影響が出てくるのは、2割特例が終わって一般課税で計算するようになった取引先です。

ここから先の話は、取引先が一般課税で消費税を計算している場合のことだと読んでください。

未登録の相手への支払いについては、一定割合を差し引ける経過措置があります。
国税庁のインボイスQ&A「問113-3」(令和8年4月追加)には、期間ごとの割合がこう書かれています。

期間割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日まで仕入税額相当額の80%
令和8年10月1日から令和10年9月30日まで仕入税額相当額の70%
令和10年10月1日から令和12年9月30日まで仕入税額相当額の50%
令和12年10月1日から令和13年9月30日まで仕入税額相当額の30%

表のあとはどうなるのか。
国税庁「令和8年度税制改正特集」に載っている図の代替テキスト(画像に付けられた説明文)には、「令和12年10月1日から1年間は30%控除可能、令和13年10月1日以降は控除不可。」とあります。
2031年10月1日以降は、未登録の相手への支払いについて、この経過措置による控除はなくなるということです。

同じページの別の図の代替テキスト(画像に付けられた説明文)には「改正前は令和8年10月から3年間50%で、その後0%となる予定だった。」ともあります。
「2026年10月から50%」と書いた解説を見かけたら、それは改正前の予定です。

西暦にすると、2026年9月30日までは80%、2026年10月1日から70%です。
令和8年度の税制改正で、適用期限を延ばしたうえで割合が見直された結果で、国税庁の「令和8年度税制改正特集」にも「適用期限を2年間延長した上で、以下のとおり控除可能割合が見直されました。」とあります。

この経過措置は、取引先が自動的に使えるわけではありません。
問113-3は、「区分記載請求書等と同様の記載事項が記載された請求書等及び一定の記載がされた帳簿の保存があれば」適用を受けられる、としています。
未登録でも、取引先が経過措置を使えるよう、請求書に書くべき事項は取引先に確認しておくと話が早くなります。

Web制作は、原則として「役務が完了した日」で割合が決まる

どちらの割合を使うかは、支払った日でも契約した日でもありません。
同じ問113-3に、こう書かれています。

役務の提供を受けた場合の課税仕入れの時期は、原則として、その約した役務の全部が完了した日になります。

国税庁 インボイスQ&A 問113-3

問113-3の例では、2026年9月21日に始まり10月20日に完了し、10月31日に代金を払う役務について、70%を使うと回答されています。
9月に着手した制作でも、完了が10月にずれ込めば、取引先は70%で計算することになるということです。

ただし引用のとおり「原則として」です。
契約の形によっては扱いが異なる場合があるので、分割して納品・検収する契約などで判断に迷うときは、取引先の経理や税理士に確認してください。

取引先の負担は、いくら増えるのか(一般課税の場合)

目安をつかむために、単純化して計算します。
ここでは地方消費税を含めた10%で概算しています。
実際の申告の計算とは異なる
ので、規模感をつかむためだけに使ってください。

税込55万円の制作費なら、消費税相当額は5万円です。
そのうち取引先が差し引けない部分は、期間によってこう変わります。

期間差し引ける割合差し引けない部分(概算)2026年9月までとの差
2026年9月30日まで80%1万円基準
2026年10月1日から70%1.5万円5,000円増
2028年10月1日から50%2.5万円15,000円増
2030年10月1日から30%3.5万円25,000円増
2031年10月1日から0%5万円40,000円増

1件ではそこまで大きく見えないかもしれませんが、取引先から見ると未登録の外注先が複数いれば、その分だけ積み上がります。
見直しを求められやすくなるのは、この差があるからです。

値下げや取引停止を求められたときの線引き

ここは財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省による「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」が詳しいです。

まず、見直しを求めること自体は問題ではないとされています。

仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度を踏まえて取引条件を見直すことそれ自体が、直ちに問題となるものではありませんが、見直しに当たっては、「優越的地位の濫用」に該当する行為を行わないよう注意が必要です。

同Q&A Q7

そのうえで、行為ごとに線引きが書かれています。
Web制作の受注で起こりそうなものを抜き出します。

値下げ:「双方納得」なら問題ない。形だけの再交渉は問題

取引対価の引下げについては、こうあります。

しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が仕入れ時に支払っていた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。

同Q&A Q7「1 取引対価の引下げ」

直前には、仕入税額控除が制限される分について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の支払いも考慮したうえで「双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。」とも書かれています。

つまり値下げの話し合いに応じること自体は普通のことで、問題になるのは、優越した立場から、形だけの再交渉で一方的に著しく低い価格を決められる場合です。
Web制作者もソフトやサーバー代などで消費税を払っているので、提示された価格がその消費税額も払えない水準かどうかは、判断材料のひとつになります。

もうひとつ、すでに発注された仕事の代金を後から削られる場合は別の問題です。
取適法の対象となる取引については、同じQ&Aにこうあります。

なお、取適法の規制の対象となる場合で、事業者(買手)が免税事業者である仕入先に対して、仕入先の責めに帰すべき理由がないのに、発注時に定めた代金の額を減じた場合には、取適法第5条第1項第3号で禁止されている代金の減額として問題となります。
この場合において、仕入先が免税事業者であることは、仕入先の責めに帰すべき理由には当たりません。

同Q&A Q7「1 取引対価の引下げ」

9月に発注された仕事が10月に完了し、「割合が下がったので、その分を差し引きます」と言われるような場面が、これに近いと考えられます。

なお、取適法が当てはまるのは取引の一部です。
同Q&Aの注記では、発注者と免税事業者の取引が「取適法にいう委託事業者と中小受託事業者の取引に該当する場合」で、情報成果物作成委託などに当たる場合に規制の対象になる、とされています。
自分の取引が当てはまるかは、発注者と自分の規模などで決まるので、迷うときはQ&Aの別紙にある相談窓口で確認してください。

取適法に当たらない取引でも、フリーランス法の対象になる場合があります。
公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省のパンフレット「フリーランス・事業者間取引適正化等法 ここからはじめる」には、「フリーランスに【1か月以上※】の業務委託をしている発注事業者には、7つの禁止行為が定められています。」(14ページ)とあり、そのひとつが報酬の減額です。

フリーランスに責任がないのに、業務委託時に定めた報酬の額を、後から減らして支払うことです。

同パンフレット 15ページ「報酬の減額」

どの発注者がこの義務を負うかには条件があります。
線引きはフリーランスの入金が遅いときにやることで整理しています。
なお、フリーランス法のQ&A(問78)では、振込手数料を報酬から差し引くことも、合意の有無にかかわらず報酬の減額にあたるとされています(報酬から振込手数料を引かれたとき)。

取引停止:応じないことを理由に打ち切るのは問題になりうる

事業者がどの事業者と取引するかは基本的に自由ですが、例えば、取引上の地位が相手方に優越している事業者(買手)が、インボイス制度を踏まえて免税事業者である仕入先に対して、一方的に、免税事業者が仕入れ時に支払っていた消費税額も払えないような価格など著しく低い取引価格を設定し、不当に不利益を与えることとなる場合であって、これに応じない相手方との取引を停止した場合には、独占禁止法上問題となるおそれがあります。

同Q&A Q7「5 取引の停止」

書き出しのとおり、どこと取引するかは基本的に自由です。
登録していないことだけを理由に次の発注が来なくなる、というだけで直ちに問題になるとは書かれていません。
問題になりうるのは、優越的な立場から著しく低い価格を一方的に押しつけ、それを断った相手との取引を止める場合です。

「登録してください」という要請:要請そのものは問題ではない。一方的な通告は問題になりうる

課税事業者になるよう求められる場面については、こうあります。

このような要請を行うこと自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。

同Q&A Q7「6 登録事業者となるような慫慂等」

続けて、「課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げるとか、それにも応じなければ取引を打ち切ることにするなどと一方的に通告することは、独占禁止法上又は取適法上、問題となるおそれがあります。」と書かれています。

また、登録して課税事業者になったあとの注意もあります。
新たに納める消費税の分について、明示的に協議しないまま取引価格を据え置くことも、問題となるおそれがあるとされています。
登録を求められて応じるなら、消費税分をどう価格に反映するかをその場で話題に出すことが、この注意書きに沿った進め方です。

登録するかどうかを考える材料

登録すれば取引先の心配はなくなりますが、自分が消費税を納めることになります。
負担を軽くする特例が2つあります。

特例対象の期間内容
2割特例令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間納付税額を売上税額の2割にできる
3割特例令和9年分・令和10年分(個人事業者)納付税額を売上税額の3割にできる

2割特例は国税庁インボイスQ&A「問114」、3割特例は前出の「令和8年度税制改正特集」にあります。
個人事業者の場合、2割特例は問114の図のとおり令和8年分(2026年分)の申告まで、そのあと令和9年分・令和10年分は3割特例、という並びです。

3割特例には条件があります。
税制改正特集には、個人事業者であること、基準期間(適用を受ける年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下であること、インボイス発行事業者の登録を受けていることが主な要件として挙がっています。
対象は「インボイス発行事業者の登録を受けたことにより免税事業者から課税事業者となった個人事業者」です。

もうひとつ、登録すると国税庁の公表サイトに氏名が載ります。
公表サイトのよくある質問1-10によると、住所は公表事項ではなく、屋号と主たる事務所の所在地は本人が申し出た場合に限り公表されます。
同FAQは、申し出がなければ公表サイトの情報によって屋号と氏名が直接紐づけられることはない、としています。
ただし公表サイトは登録番号を入力すると氏名を確認できる仕組みなので、屋号で活動している人でも、登録番号を伝えた取引先には氏名が分かります。
この点は開業届の住所に自宅を書くリスクに書きました。

実際の募集では、登録は求められているのか

手元の記録で数えました。

  • 対象は私が応募候補として取り込んだ募集1,186件(Web制作・開発まわりが中心)。各プラットフォームの全体から無作為に選んだものではありません
  • 取り込んだページの本文と項目を合わせて、「インボイス」「適格請求書」「登録番号」「免税事業者」「課税事業者」のいずれかを含むものを探した
  • 集計日は2026年9月13日
取り込んだ募集インボイスに触れていたものその中身
1,186件4件(すべてクラウドワークスの募集本文)登録の有無を尋ねるもの3件。【必須条件】に登録を挙げつつ「登録が無い方でも相談可能です」と添えたもの1件未登録を不可としたものは0件

尋ねるものは「インボイス有無もご教示ください」「インボイスの取得状況を教えて下さい」といった書き方でした。
残る1件は、【必須条件】の箇条書きに「インボイスの登録(登録が無い方でも相談可能です)」と並べていました。
登録を望みつつ、未登録でも門前払いにはしない、という書き方です。

言えるのは、応募の段階で未登録を不可としている募集は、私の記録には見当たらなかったということです。
ただし登録を望む発注者がいることは読み取れます。
契約の段階や、継続取引の途中で求められるかどうかは、この数字からは分かりません。

聞かれたときに見る順番

  1. 取引先と、いつ完了する仕事かを確認する。2026年10月1日以後に完了するなら、取引先が一般課税の場合は原則として70%で計算する。消費者・免税事業者や、簡易課税の取引先には影響は生じないと考えられる(2割特例の取引先も同様。2割特例は2026年9月30日を含む課税期間までで、その後3割特例に移る個人の取引先も影響は出にくい。一般課税に移る取引先には影響が出る)
  2. 見直しの話が来たら、話し合いに応じる。そのとき、自分もソフト代やサーバー代で消費税を払っていることを伝える
  3. 「登録しないなら値下げ、応じないなら打ち切り」と一方的に言われたら、Q&Aの該当箇所を確認する。迷うなら公正取引委員会などの相談窓口がQ&Aの別紙に載っている
  4. 登録するなら、特例の期間と自分の売上高を確かめる。個人事業者は2026年分まで2割特例、2027年分・2028年分は3割特例(条件あり)
  5. 登録するなら、消費税分を価格にどう反映するかをその場で話す。据え置きのままにしない

請求書の書き方で入金額が変わる話はWeb制作の報酬は源泉徴収されるのかに、入金が遅れたときの対応はフリーランスの入金が遅いときにやることにまとめています。

この記事で引用した制度は、国税庁と公正取引委員会が公開している資料で確認できます。
制度は改正されることがあるので、判断が必要な場面では最新版と、必要なら専門家の確認を取ってください。

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この記事を書いた人

宮城県東松島市でひとりでWeb制作をやっています。Web業界10年、会社員時代に50を超えるプロジェクトを担当したのち独立。実際に使った道具と、迷って決めたことを書いています。

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